平成31年2月、人事院規則15―14(職員の勤務時間、休日及び休暇。以下「人事院規則」という。)に次の規定を追加する改正が行われ、平成31年4月1日から施行された。
(超過勤務を命ずる時間及び月数の上限)
第16条の2の2 各省各庁の長は、職員に超過勤務を命ずる場合には、次の各号に掲げる職員の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める時間及び月数の範囲内で必要最小限の超過勤務を命ずるものとする。
一 次号に規定する部署以外の部署に勤務する職員 次に掲げる職員の区分に応じ、それぞれ次に定める時間及び月数(イにあっては、時間)
イ ロに掲げる職員以外の職員 次の(1)及び(2)に定める時間
(1) 1か月において超過勤務を命ずる時間について45時間
(2) 1年において超過勤務を命ずる時間について360時間
ロ 1年において勤務する部署が次号に規定する部署からこの号に規定する部署となった職員 次の(1)及び(2)に定める時間及び月数
(1) 1年において超過勤務を命ずる時間について720時間
(2) イ及び次号(ロを除く。)に規定する時間及び月数並びに職員の健康及び福祉を考慮して、人事院が定める期間において人事院が定める時間及び月数
二 他律的業務(業務量、業務の実施時期その他の業務の遂行に関する事項を自ら決定することが困難な業務をいう。)の比重が高い部署として各省各庁の長が指定するものに勤務する職員 次のイからニまでに定める時間及び月数
イ 1か月において超過勤務を命ずる時間について100時間未満
ロ 1年において超過勤務を命ずる時間について720時間
ハ 1か月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の1か月、2か月、3か月、4か月及び5か月の期間を加えたそれぞれの期間において超過勤務を命ずる時間の1か月当たりの平均時間について80時間
ニ 1年のうち1か月において45時間を超えて超過勤務を命ずる月数について6か月
2 各省各庁の長が、特例業務(大規模災害への対処、重要な政策に関する法律の立案、他国又は国際機関との重要な交渉その他の重要な業務であって特に緊急に処理することを要するものと各省各庁の長が認めるものをいう。以下この項において同じ。)に従事する職員に対し、前項各号に規定する時間又は月数を超えて超過勤務を命ずる必要がある場合については、同項(当該超えることとなる時間又は月数に係る部分に限る。)の規定は、適用しない。人事院が定める期間において特例業務に従事していた職員に対し、同項各号に規定する時間又は月数を超えて超過勤務を命ずる必要がある場合として人事院が定める場合も、同様とする。
3・4 (略)
上記の時間外勤務の上限時間等は、平成30年7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)」第1条の規定により改正された次の労働基準法(以下「法」という。)第36条の規定における限度時間等を参考にしていると思われる。
(時間外及び休日の労働)
第36条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
② 前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
(1)~(3) (略)
(4) 対象期間における1日、1か月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
(5) 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
③ 前項第4号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
④ 前項の限度時間は、1か月について45時間及び1年について360時間(第32条の4第1項第2号の対象期間として3か月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、1か月について42時間及び1年について320時間)とする。
⑤ 第1項の協定においては、第2項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第2項第4号に関して協定した時間を含め100時間未満の範囲内に限る。)並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第1項の協定に、併せて第2項第2号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が1か月について45時間(第32条の4第1項第2号の対象期間として3か月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、1か月について42時間)を超えることができる月数(1年について6か月以内に限る。)を定めなければならない。
⑥~⑪ (略)
上記のとおり、人事院規則第16条の2の2第1項第1号イの時間及び同項第2号の時間等は、それぞれ法第36条第4項の時間及び同条第5項の時間等と均衡が図られている。
ただし、両者の間には微妙な違いがある。厚生労働省ホームページ掲載のパンフレットによると、法第36条第4項の限度時間には、休日における正規の勤務時間における労働時間*1(以下「休日労働時間」という。)を含まず、同条第5項のそれには、休日労働時間を含んでいる*2。これに対し、人事院規則の上限時間は、いずれも休日労働時間を含んでいない。
人事院規則の場合、他律的業務の比重が高い部署に勤務する職員かどうかによって上限を変えているため(人事院規則第16条の2の2第2号)、法のような規定とすることはできないのだろうが、そのため、自治体において人事院規則と同様の規定を設ける場合に悩みが生じることになる。
国家公務員の場合は、原則として法が適用されないため(国家公務員法附則第16条)、法の規定と違う定めをしたとしてもあまり問題はないのであるが、自治体の職員の場合は、原則として法が適用されることになり、法別表第1に掲げる事業に従事する職員については、法第36条の規定が適用になることになる*3。したがって、都道府県の人事委員会規則の規定例を見ると、大別して、法別表第1に掲げる事業以外の事業に従事する職員についてのみ人事院規則と同様の規定を定める例*4と全ての職員について人事院規則と同様の規定を定める例が見られる。
考え方としてどちらが間違っているということはないと思うが、法別表第1に掲げる事業に従事するかどうかで別異の取扱いをする合理的な理由がなければ、全ての職員について統一的に取り扱う規定とすべきである。そうすると、結果的に法第36条第4項及び第5項の限度時間を基準として定めるべきということになるのだろう。
*1:休日給の支給対象となる時間のことである。
*2:法第36条第4項の限度時間は、同条第3項のそれを受けているが、それは「労働時間を延長して労働させることができる時間」についてのものである。それに対し、同条第5項の限度時間は、「労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間としている。
*3:法別表第1に掲げる事業以外の事業に従事する職員については、労働時間の延長及び休日労働は一般に法第33条3項の規定によることとなり、法36条第1項の協定は不要とするのが厚生労働省の解釈である。
*4:法別表第1に掲げる事業に従事する職員については、36協定で対応すればいいという判断だと思われる。