自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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自治体の規則(7)

 

3 全執行機関に共通する事項

 自治体の規則は、全執行機関に共通する事項を定めることができるとされている。例えば、長谷川彰一「地方公共団体の規則及び委員会規則その他の規程」松永邦男ほか『自治立法』P246では「地方公共団体の規則は、地方公共団体の長が定めるものであるから、その内容は各執行機関に共通する事項をも規定する場合があ」るとしている。しかし、それを制定するのは、あくまでも自治体の長であるため、定めることができる事項は自治体の長の権限に属する事項でなければならないだろう。

 したがって、2(1)の財務に関する事項は、法律上は長の事務であるから、他の執行機関が従うべき規範を定めることができるのだろう。その他に他の執行機関に係る事項を規則で定めるのであれば、条例等で他の執行機関に係る事項についても規則で定めることを委任し、それを長の事務とした上で制定することが適切と思われる。そのような形で規則で定めることを考えることができる事項としては、次のようなものがある。

  (1) 情報公開条例や個人情報保護条例において執行機関が定めることとしている事項

 情報公開条例や個人情報保護条例において執行機関が定めることとしている事項について、長の規則で全執行機関を対象として定めるように条例で委任することが考えられる(出石稔「自治立法としての規則、要綱等」鈴木庸夫『自治体法務改革の理論』(P64)参照)。

 長の規則でまとめて定めるか、各執行機関がそれぞれ定めるかには、これらの条例に基づく事務について、一義的には長の責任において行うべきものと考えるのか、あくまでも執行機関がそれぞれの責任において行うべきものと考えるのかによると思うが、近年、これらの条例に基づき長に置かれる附属機関の役割を大きくしているような傾向があることからすると、前者の方が妥当と言うことができるだろう。

  (2) 文書管理に関する事項

 文書管理に関する事項については、国においては平成21年に「公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)を制定し、法制化が図られたため、自治体においても今後条例化が進んでいくだろう。

 しかし、仮に公文書管理法と同様の規定を置くこととした場合、その法律事項は、特定歴史公文書等の利用請求及びそれに関わる審査請求の審査機関としての公文書管理委員会の設置であると思われるが、これらの事項は情報公開の一環としての位置付けも可能であるので、これらの事項を情報公開条例に規定し、文書管理に関する事項は規則で定めるという方法も考えられるだろう。

 もちろん、訓令という形式で定めても違法等の問題は生じないが、情報公開条例で情報公開請求という権利を住民に認めることとした以上、その前提となる文書管理に関する事項は、法規である規則で定めることが適当であるということができ、情報公開条例で全執行機関に共通する事項については長の規則で定めることを委任することも考えられると思う。

 なお、文書に関わる事項のうち、その処理手続については、住民の権利義務に一義的に関係することはないので、訓令で定めれば足りるだろう。

 4 おわりに

 これまで規則で規定すべき事項について述べてきたのは、法制度上では規則は条例と並ぶ法形式であるにもかかわらず、規則の役割が低下している現状があることから、規則の活用範囲を明確にできないかという問題意識からである。

 実際には、規則を用いるのは法令又は条例で委任されている事項を規定する場合が多いのであり、規則を法律に対する命令(政・省令等)と同じような位置付けとするというように割り切った考え方もあり得るところであり、今後の規則の用いられ方を注視したいところである。

 なお、規則に関する事項として、過料を科する旨の規定を設けることができること(地方自治法第15条第2項)があり、これは既に不要な規定とする意見もあるところである。これは、個人的には結論が出ていない事柄であり、紹介のみにとどめることとする。