自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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目的規定(7)

(「(ア) 法律の目的規定を参照したことなどによる弊害」の続き)

  小泉祐一郎『地域主権改革一括法の解説』では、自治体の道路条例において、地域の交通基盤の整備や歴史景観等を加えた目的規定とすることを提案しており、その試案における目的規定を次のようにしている。

 (目的)

第1条 この条例は、地域の交通基盤の整備を図るため、道路及び認定外道路(以下「道路等」という。)に関して、路線の認定、管理、構造、保全等に関する事項を定め、もつて交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進に資するとともに、歴史景観等を生かした個性豊かな街づくりを推進することを目的とする。

 では、条例試案で規定している事項であるが、この目次は次のとおりである。

第1章 総則(第1条―第4条)

第2章 市道

 第1節 市道の新築、改築(第5条)

 第2節 市道の認定(第6条―第9条)

 第3節 道路の保全(第10条)

 第4節 道路の占用(第11条―第19条)

 第5節 道路占用料・延滞金(第20条―第22条)

 第6節 道路の承認工事(第23条―第29条)

 第7節 標識(第30条・第31条)

 第8節 自動車専用道路(第32条・第33条)

第3章 認定外道路の管理(第34条―第37条)

第4章 雑則(第38条・第39条)

附則

 目的規定には、条例で定めている事項の例示として「路線の認定、管理、構造、保全等」を挙げているが、目次と対応していないことは明らかである。これは、条例の体系を意識せずに法律の書きぶりを真似ているだけなので、形式的におかしい規定になっている。

 さらに、目的規定には、地域の交通基盤の整備や歴史景観等を生かすことという目的を掲げているが、「路線の認定、管理、構造、保全等」を定めることで、これらの目的を達成するとは思えない。

 では、これらの目的を達成するために具体的にどのような施策を講じるのかといったことについてであるが、条例試案には、基本理念として次のような規定がある。

 (基本理念)

第2条 道路等に関する政策は、道路が地域内外の交流や住民の社会経済活動にとって不可欠な移動のための社会基盤であるとともに、住民生活にとって重要な公共空間であることを基本に、活力のある暮らしやすい地域社会の形成に資するものでなければならない。

2 道路等の整備は、地域内外の交通ネットワークを考慮し、かつ、地域の街並みや景観に配慮するとともに、利用者にとって便利で安全なものとなるよう行うものとする。

3 (略)

 そして、条例試案の第5条で、市道の構造の技術的基準は、この基本理念に即して規則で定めるとしているが、道路政策云々や景観といった事項は、構造の技術的基準とは直接的に関係があるとは思えないし、事実、規則試案にも関係すると思われる規定はない。

 法律を参考にしつつ、あれもこれも取り入れようとした結果、体系が滅茶苦茶になってしまう例だろう。上記の場合、交通基盤の整備に関する理念を条例で書きたいのであれば、別個の条例として基本条例的なものとすることも考えられるし、その方が体系としてきれいになるように思う。

    (イ) 法律の理念規定を参照したことによる弊害

 小泉祐一郎『地域主権改革一括法の解説』(P293~)には、児童福祉条例試案の目的規定において、児童福祉法第1条の理念規定を参考としたものがある。同条の規定は、次のとおりである。

 (児童福祉の理念)

第1条 すべての国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるように努めなければならない。

2 すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。

 そして、条例試案の目的規定を次のようにしている。

 (目的)

第1条 この条例は、児童が心身ともに健やかに生まれ、かつ、育成されるとともに、すべての児童がひとしくその生活を保障され、愛護されるよう必要な措置を講じ、もって児童福祉の増進を図ることを目的とする。

 しかし、肝心の条例試案の内容は施設の基準がほとんどであるため、条例に内容に甚だ不釣合いの目的規定になってしまっている。

 そもそも条例の目的規定を書こうとするときに、法律の理念規定を参考にしようとすることに無理があると思うのだが、目的規定を書く場合には、当然その条例の内容を意識したものとする必要があるが、それを意識せずに、法律の規定から何か目的規定となりそうな事項を抜き出しているだけであるため、こうしたことになるのだろう。

 上記の事例は、法施行条例として割り切るべきものであろう。