自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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県民投票条例

 沖縄県において平成30年10月31日に公布された「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に基づく県民投票に不参加を表明する市があることがマスコミを賑わしている。現在は、投票の方法を「賛成」「反対」の二者択一ではなく、「どちらでもない」を加えた投票とする条例改正を行うことによって全市町村が参加する方向に進んでいるようであるが、この県民投票に不参加を表明した市があったことについて、県民投票を行うのは市町村の義務であり、それを行わないことは住民の権利侵害に当たり憲法違反であるといった見解も見聞するところである。

 この条例においては、投票に関する事務を地方自治法第252条の17の2の規定に基づき市町村の事務とすることを明記しているので(条例第13条)、形式的には市町村に実施義務があるということは否定できないだろう。しかし、条例の内容について考えた場合に単純にそのように考えてよいかは、疑問に感じる点がある。

 この条例は「国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立て…に対し、県民の意思を的確に反映させることを目的とする」としている(条例第1条)。字義通りに解すると、国が行う埋立てに県民意思を反映させるために県民投票を実施するということになるが、その意図が明確でなく、国の事務に関し県民投票を行うという趣旨であるとも考えられる。そうすると、この条例は、国の事務を対象にしたもので、条例自体が違法であることになる。

 ただし、この点については、本件埋立てに関し沖縄県が有する権限の行使に県民の意思を反映するという趣旨なのだとも言える。そうすると、必ずしも県の事務に関するものではないということにはならないだろうが、表現の稚拙に対する批判は免れないだろう。

 さらに、そもそも投票は県の事務とはなり得ないのではないかという点も考えてみるべきではないかと思う。つまり、選挙に係る投票に関する事務は、法律上、国の選挙については第一号法定受託事務、県の選挙については第二号法定受託事務となっているが、いずれにしろ市町村の事務とされている結果として、投票に関する事務を県の事務とすることは事実上不可能なのではないだろうか。

 もちろん、県が自ら住民投票を行うのであれば県の事務ではないとまでは言い切れないだろうし、県民投票に不参加を表明した市について沖縄県が自ら実施することを検討するといった報道もなされたが、それは土台無理な話だったのではないだろうか。

 沖縄県は、平成8年に今回と同様条例の制定請求(地方自治法第74条)に基づき「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票条例」を制定し、県民投票を実施している。この時は分権前であり、当時の地方自治法第153条第2項*1の規定に基づき投票に関する事務を市町村の事務としている。法的に問題はなかったとは言い切れないが、当時の県と市町村の関係が反映されているように感じる。

 いずれにしろ、条例に基づく住民投票については、住民自治の観点から肯定的に捉える見解が多いと思うが、それは市町村の場合であって、都道府県が実施するには高いハードルがあるという一例だろう。

*1:都道府県知事は、その権限に属する事務の一部をその管理に属する行政庁又は市町村長に委任することができる」という規定である。