自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(5)

 (2) 全文を改める改正規定

 河野久『立法技術入門講座3法令の改め方』(P226~)では、条・項・号・本文・ただし書・各号列記以外の部分・前段・後段等を全文一括して改める場合には、「○○○を次のように改める」という形式になり、それを特定する表現は、「第○条の改正規定」というように「……の改正規定」と表現することになるとしている。

  (3) 条・項等を追加する改正規定

 河野前掲書(P227~)では、条を追加する改正規定については、「第○条の次に○条を加える改正規定」というように表現し、条より小さい単位である項・号等を追加する改正規定については、「第○条第○項の次に1項を加える改正規定」「第○条に1項を加える改正規定」というように表現してもよいが、原則に戻って「第○条の改正規定」と表現することも可能であるとしている。

 しかし、実際には、「第○条の改正規定」というように簡略化しない例が多いように感じる。項等の追加は、1つの条の改正規定であっても、その途中で改行する必要があり、段落ごとに改正規定があると考えることもできるからではないだろうか。事実、河野前掲書(P233~)には、次のように記載している。

 同一条の改正でありながら複数の段落の改正規定に分かれる場合があるが、その場合、それを一括して「第○条の改正規定」と特定できないわけではない。ただ、誤解を招かないように、段落ごとに「第○条第1項の改正規定及び同条第3項の改正規定」というように表現することも多い。

 (4) 条・項等を削除する改正規定 

 河野前掲書(P228)では、条・項・号等を削除する改正規定は、「○○を削る改正規定」という表現で特定するものとし、項以下の単位を削る改正規定については、その上位の単位でまとめて「第○条の改正規定」と表現することもあり得るが、他と複合することなく単に削るだけの規定であれば「第○条第○項第○号を削る改正規定」というように表現するのが普通であるとしている。

 (5) 条・項等を移動させる改正規定

 河野前掲書(P228~)では、条を移動させる改正規定は、その規定の表現をそのまま使って特定することになるので、「第3条を第4条とする改正規定」「第5条を第6条とし、第4条を第5条とする改正規定」「第8条を第9条とし、第7条を第8条とし、第6条を第7条とする改正規定」「第10条を第12条とし、第7条から第9条までを2条ずつ繰り下げる改正規定」というように表現すればよいが、後二者については、3条以上の移動であるので「第6条から第8条までを1条ずつ繰り下げる改正規定」「第7条から第10条までを2条ずつ繰り下げる改正規定」というように、表現を簡略化する例も多いとしている。

 また、項・号等を移動させる改正規定については、河野前掲書(P229)は、条の移動の場合と同様に考えればよいが、条より小さい単位の項・号等の移動は、それだけで改正規定のセンテンスを構成せず、項・号等の追加や削除を伴ったものとなる場合が多いため、まとめて「第○条の改正規定」と簡略化されることもあり得るとしている。ただし、項等の追加がある場合については、(3)に記載したように、簡略化しない例が多いと思われる。

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(4)

3 改正規定の特定の仕方

 通常の一部改正の例規については、条、項、号などを捉えて改め文を作成していくが、一部改正の例規を改正する例規については、改正規定を捉えて改め文を作成していくことになる。

 改正規定の捉え方については、通常の一部改正の例規でも施行日の書き分けをする場合にも行う必要があるので、やり方はこれと同じである。

 改正規定の捉え方についてはあまり解説した文献がない中で、やや古い文献になるが、河野久『立法技術入門講座3法令の改め方』を引用しつつ、以下記すこととする。

  (1) 字句を改める改正規定

 河野前掲書では、条項中の字句を改める箇所が1つの場合には、「第○条中……」「第○条第3項第1号中……」というような形式になっているので、そのまま「第○条の改正規定」「第○条第3項第1号の改正規定」というように表現すればよいとする。「第○条第3項第1号の改正規定」の表記については、他に同条の改正規定がない場合には、「第○条の改正規定」と簡略化しても不都合はないわけだが、修正箇所の特定がひとつだけであれば、通常は簡略化しないのが例であるとしている。

 では、次の例のように改正箇所の特定が複数になる場合はどうか。

<例1>

 第○条第2項第3号中「……」を「……」に改め、同条第3項中「……」を「……」に改める。

<例2>

 第○条第1項第1号中「……」を削り、同条第4項第1号中「……」の下に「……」を加え、同項第2号中「……」を「……」に改める。

 この場合について、河野前掲書(P226)は次のように記載している。

 最も規定に忠実に表現しようとすると、前者は「第○条第2項第3号及び第3項の改正規定」となり、後者は「第○条第1項第1号並びに第4項第1号及び第2号の改正規定」という表現になる。この場合、いずれも「第○条の改正規定」と簡略化できないわけではない。ただ、改正の要素が「字句の改正」だけであるような場合には、それほど簡略化の必要性が認められないために、「第○条の改正規定」とする例はあまり多くない。むしろ、このようなケースでは、号以下の単位で細かくとらえることを避け、項以上の単位(つまり、条と項)でまとめ、「第○条第2項及び第3項の改正規定」「第○条第1項及び第4項の改正規定」と表現することが多い。このように項以上の単位でまとめることについては、号以下が足切られることで非常に整序された表現になることのほかに、理論的な合理性もあると考えられる。それは、法律の規定として完結した意味を持ち得る最小の単位が項であるという点である。号以下は、それだけでは独立して意味を持つ規定ではない。このことから、改正規定を特定する表現として項及び条を単位とすることは、かなりの合理性を有することであるといえよう。

 ここでは、法律の規定として完結した意味を持ち得る最小の単位が項であることをもって、改正規定を特定する場合にも項を単位とすることは合理的であるとしている。しかし、項を単位としているのは条文を書く場合の話であり、改正の場合に項を単位としているわけではないので、何となく後付けの理由のように感じる。改正は条を単位に行うこととされていることからすると、条を単位とする方が合理的なように思う。

 むしろ、字句を改める箇所が1つの場合には規定に忠実に簡略化しないのであるから、改正箇所の特定が複数の場合も原則としては規定に忠実に簡略化しないこととして、合理性の観点から必要に応じ適宜簡略化してもよいということにしておけばいいのではないだろうか。例えば、例1で、第○条第2項第3号の改正箇所のみ特定する必要があれば、「第○条第2項第3号の改正規定」とすればいいし、同条第3項の改正箇所も併せて特定するのであれば、「第○条第2項第3号及び第3項の改正規定」するのが原則だが、合理性の観点から「第○条の改正規定」と簡略化してもいいと考えればいいように思う(「第○条第2項及び第3項の改正規定」としてもあまり合理的とは思えない)。

 なお、河野前掲書(P226)では、連続して3以上の条、項又は号について同一の内容の改正を行う場合には、「第○条から第○条までの規定中」というように指示することになっているので、「第○条から第○条までの改正規定」と表現すればよい(「第○条から第○条までの規定の改正規定」というように表現する必要はない)としている。このことを少し具体的に説明する。次のような改め文があるとする。

<例3>

 第2条から第4条までの規定中……に改める。

 <例4>

 第2条中……に改める。

 第3条中……に改める。

 第4条中……に改める。

 <例5>

 第2条中……に改める。

 第3条中……に改める。

 第5条中……に改める。

 例3と例4の改正規定については、「第2条から第4条までの改正規定」と捉えることとしている。

 これに対し、例5の改正規定については、改める条が連続していないので、「第2条、第3条及び第5条の改正規定」とするのが通例のようである。ただ、個人的には、改正規定としては連続しているので、簡略化した表現にしてもよいと思っているが、それは後で触れることとする。

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(3)

 (3) 実例

   児童福祉法施行令の一部を改正する政令平成26年政令第357号)

   附 則

 (児童福祉法施行令等の一部を改正する政令の一部改正)

第14条 児童福祉法施行令等の一部を改正する政令平成26年政令第300号)の一部を次のように改正する。

  (略)

 第1条中児童福祉法施行令第27条の11第1項の改正規定を次のように改める。

 第27条の11第1項第1号中「 、第11号から第13号まで、第16号及び第18号」を「及び第11号から第19号まで」に改める。

 第1条中児童福祉法施行令第27条の11第2項の改正規定を次のように改める。

 第27条の11第2項第2号中「(第14号、第15号及び第17号を除く。)」を削る。

  平成26年政令第300号の第1条における上記の政令の関係部分は、次のとおりである。

 第27条の11第1項中「指定障害児入所施設」の下に「(障害児入所医療(法第24条の20第1項に規定する障害児入所医療をいう。次項及び第27条の13第2項において同じ。)を提供するものを除く。)」を加え、同項各号を次のように改める。

 (1) 第25条の7第1項各号に掲げる法律

 (2) 第25条の12第1項各号(第3号を除く。)に掲げる法律

 第27条の11第2項中「前項に掲げるもののほか、」及び「(法第24条の20第1項に規定する障害児入所医療をいう。第27条の13第2項において同じ。)」を削り、同項各号を次のように改める。

 (1) 健康保険法

 (2) 第25条の7第1項各号及び第2項各号(第8号を除く。)に掲げる法律

 (3) 第25条の12第1項各号(第3号を除く。)に掲げる法律

 平成26年政令第357号では、平成26年政令第300号における第27条の11第1項の改正規定と同条第2項の改正規定が別の段落になっているため、上記のような改正規定としたのであろうが、平成26年政令第357号による改正後のそれぞれの改正規定を見ると、通常であれば別の段落とはせずに、一文で書くべき内容である。

 したがって、平成26年政令第357号は、次のようにすべきではないだろうか。 

 第1条中児童福祉法施行令第27条の11第1項の改正規定を次のように改める。

 第27条の11第1項第1号中「、第11号から第13号まで、第16号及び第18号」を「及び第11号から第19号まで」に改め、同条第2項第2号中「(第14号、第15号及び第17号を除く。)」を削る。

 第1条中児童福祉法施行令第27条の11第2項の改正規定を削る。

 

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(2)

2 一部改正例規の一部を改正する例規の立案の方法

 (1) 改正規定の一部を改める場合

 次の条例(先行条例)が公布されたものとする。

   A条例の一部を改正する条例

 A条例の一部を次のように改正する。

第2条に次の1項を加える。

2 ‥‥‥‥

   附 則

 この条例は、令和3年4月1日から施行する。

 その公布後に、さらにA条例第2条に1項の追加をする改正を行う必要が生じ、その施行期日は令和3年1月1日とする条例(後行条例)を制定する場合には、後行条例は次のようになり、その附則で先行条例の改正を行うことになる。

   A条例の一部を改正する条例

 A条例の一部を次のように改正する。

第2条に次の1項を加える。

2 ‥‥‥‥

   附 則

 (施行期日)

1 この条例は、令和3年1月1日から施行する。

 (A条例の一部を改正する条例の一部改正)

2 A条例の一部を改正する条例(令和3年〇〇条例第〇号)の一部を次のように改正する。

  ………

 先行条例をどのように改正するかであるが、先行条例で追加した第2項が、後行条例が制定されたことによって第3項とする場合(パターン1)と第2項のままとする場合(この場合は、後行条例で追加する規定が先行条例の施行によって第3項とする必要があることになる)(パターン2)とが考えられる。

 そうすると、先行条例の改正規定は、パターン1の場合とパターン2の場合とで次のようになるように改正する必要がある。

改正前 パターン1改正後 パターン2改正後
第2条に次の1項を加える。
2 (略)
第2条第2項を同条第3項とし、同条第1項の次に次の1項を加える。
2 (略)
第2条に次の1項を加える。
 (略)

 したがって、先行条例を改正する改め文は、次のようになる。

パターン1の場合 パターン2の場合
第2条に1項を加える改正規定中「第2条」を「第2条第2項を同条第3項とし、同条第1項の次」に改める。 第2条に1項を加える改正規定中同条第2項を同条第3項とする。

 つまり、基本的には通常の一部改正と同じ要領で行っていくことになる。

 パターン1の場合は、通常の一部改正の際に改めたい文言を捉えて改正していくのと同じやり方である。

 パターン2の場合は、通常の一部改正の場合に第2項を第3項にするときと同じ考え方である。一部改正例規の一部改正として考えた場合に、第2項を第3項にするという考え方が成り立つのかどうかは多少疑問がないではないが、合理性を考えれば認めていいのであろう。

 なお、後行条例の施行期日が先行条例の施行期日と同日でよいのであれば、次のように後行条例の本則で加えている1項を先行条例を改正することによって追加することも考えられる。 

区分 先行条例の改正後の改め文 先行条例を改正する改め文
先行条例で追加した第2項を第3項とする場合 第2条に次の2項を加える。
 ………
 ………
第2条に1項を加える改正規定中「1項」を「2項」に改め、同条第2項を同条第3項とし、同項の前に次の1項を加える。
2 ………
先行条例で追加した第2項を第2項のままとする場合 第2条に次の2項を加える。
2 ………
 ………
第2条に1項を加える改正規定中「1項」を「2項」に改め、同条第2項の次に次の1項を加える。
3 ………

 (2) (1)以外の場合

 改正規定の一部を改める場合以外の場合は、比較的シンプルである。

 改正規定の全部を改める場合は、「第○条の改正規定を次のように改める。」として改正後の改正規定を書くことになる。

 改正規定を削る場合は、「第○条の改正規定を削る。」とすることになる。

 改正規定を追加したい場合には、その直前の改正規定を捉えて、「第○条の改正規定の次に次のように加える。」として、追加したい改正規定を書くことになる。 

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(1)

 最近、改正規定を引用する規定が複雑な書き振りになっているのを見たが、もう少し簡略化した表記ができるのではないかという感想を持った。

 改正規定の引用は、一部改正例規を更に改正する例規を立案する際に必要な立法技術であるが、これについては、旧ブログにおいて取り上げたことがあったため、「一部改正例規を改正する例規の立案等」として16回にわたって取り上げることとする。

 <「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2007年7月28日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(1)」
  • 2007年7月29日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(2)」
  • 2007年8月4日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(3)」
  • 2007年8月5日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(4)」
  • 2007年8月11日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(5)」
  • 2008年8月22日付け記事「施行期日を書き分けた場合における不都合なこと」
  • 2008年8月29日付け記事「施行期日の書き分け(1)」
  • 2008年9月5日付け記事「施行期日の書き分け(2)」
  • 2008年9月12日付け記事「施行期日の書き分け(3)」
  • 2008年9月19日付け記事「施行期日の書き分け(4)」
  • 2009年11月20日付け記事「改正規定の特定の仕方~条の移動と追加が混在する事例」
  • 2015年12月11日付け記事「改正規定の特定の仕方~項の移動と追加が混在する事例」
  • 2016年7月8日付け記事「『同改正規定』はどこまで同じなのか」
  • 2016年7月30日付け記事「『改正規定』の一部を特定する『うち』」
  • 2017年1月6日付け記事「一部改正法令の改正における疑問」

 1 一部改正例規の一部を改正する例規の立案が必要な場合

 最初に、どのような場合に一部改正の例規の一部を改正する例規を立案することになるかについて触れておく。「A条例の一部を改正する条例」の成立後に当該条例を改正する必要が生じた場合、「A条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例」を立案するのではなく、「A条例の一部を改正する条例」が施行されることを前提として、さらに「A条例の一部を改正する条例」を立案することも考えられるからである。

 次のように、他条例の条項を引用する規定を加える条例案が既に公布されていることを想定する。

   A条例の一部を改正する条例

 A条例の一部を次のように改正する。

 第2条に次の1項を加える。

2 ‥‥B条例第3条第2項‥‥

   附 則

 この条例は、令和3年4月1日から施行する。

 この条例の公布後、施行前に、B条例の一部を改正する条例によりB条例第3条第2項が同条第3項に項ずれしたとする。この場合、A条例の一部を改正する条例により追加されたA条例第2条第2項の改正が必要になるが、通常はB条例の一部を改正する条例の附則で手当てすることになる。同条例の施行日が令和3年4月1日以降であれば、同条例の附則でA条例の一部改正としてA条例の第2条第2項を改めれば足りる。

 これに対し、B条例の一部を改正する条例の施行日が令和3年4月1日前であるときは、A条例の一部を改正する条例が施行されるときに既にB条例第3条第2項は同条第3項になっているわけだから、理屈上はA条例の一部を改正する条例を一部改正することになるであろう。だが、B条例の一部を改正する条例においてA条例第2条第2項の手当てをする規定の施行日を同日にすることができれば、B条例の一部を改正する条例の附則でA条例の一部改正として同条例の第2条第2項を改める方法でもまあ許されるのではないかと思う。

 このA条例の一部を改正する条例を一部改正しなければいけない場合としては、A条例の一部を改正する条例(以下「先行条例」という。)の施行日前に、さらにA条例第2条に1項の追加をする改正を行う必要が生じて、A条例の一部を改正する条例(以下「後行条例」という。)を立案するような場合である。この場合には、後行条例で第2条に追加する項は、第2項にするにしろ、第3項にするにしろ、先行条例の施行前に後行条例は溶け込んでいるわけだから、先行条例の改め文を改正する必要が出てくる。

 つまり、一部改正の例規の一部改正を行う必要があるのは、条、項等を追加した例規の施行前に当該例規を改正する必要が生じ、その結果、その追加した条、項等を移動しなければいけなくなった場合が典型的な例として挙げることができ、それ以外の場合では、一部改正の例規の一部改正という方法でなくても対応できる場合は結構あるのではないかと思う。

規制手法~免許制

 規制手法の代表的なものは、許可制である。「許可」とは、法令による特定の行為の一般的禁止を公の機関が特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行為をいう(吉国一郎ほか『法令用語辞典(第9次改訂版)』 (P167))。

 これと同様の意味で「免許」という用語が用いられることがある。「免許」は、「許可」の意味に用いられる場合と、法令により国家の権利に属する行為につき特定の者にこれをすることができる権利を付与すること、すなわち「特許」の意味で用いられる場合とがある(吉国前掲書(P725))。法制執務に関係する書籍においては、石毛正純『法制執務詳解』のように免許については説明しないものもあるが、それは上記の免許の性格から、独立して取り上げる必要はないと判断しているのだろう。では、自治体の条例において、免許制を用いる意義はあるのだろうか。

 法律において「免許」という用語が用いられる場合としては、次のような場合を挙げることができる。

 1 需給調整規制を行う場合

 受給調整規制とは、その業界における需要と供給の関係を行政が判断して、供給が多すぎると考えるときには新規の参入等を認めなくてもよいとする規制であり、免許制が採用される代表的なものということができる。

 例えば、酒類の製造については、酒税法により免許制が採用されているが、同法第10条第11号で「酒税の保全酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ことが免許を与えないことができる要件とされ、さらに、同法第11条で「酒税の保全酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ときに、製造量・範囲に条件を付することができるとされているが、以上の条項は、酒税の保全のために、酒類の製造業における需給調整を行う条項である。

 また、従来、受給調整規制が行われていた乗合バス事業等について、「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」(平成 12 年法律第 86 号)により同規制を廃止したが、その際に「免許」という用語を「許可」に改める改正が行われている。

 2 人的要素に着目して規制を行う場合

 免許制度は、主に資格付与制度として、特定の業務又は行為が専門的な知識・技術を持たない者によって行われたときには、危険であったり、著しく不適切であったりするような場合に、一般的な禁止をした上で、一定の資格者についてのみその禁止を解除する場合に採用される(大島俊彦『法令起案マニュアル』(P266))。道路交通法に基づく運転免許などを挙げることができる。

 また、業に対する規制であっても、宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業は、免許制が採用されている。この免許基準は、宅地建物取引業を営もうとする者の取引能力や法令遵守規範意識の保持の人的要素に着目して定められており(岡本正治ほか『(三訂版)逐条解説宅地建物取引業法』(P95))、こうした事情から免許制が採用されたのではないかと思われるが、あえて「免許」という用語を用いる必要はないと考える*1

 

 以上のとおり、業規制において免許制を採用するのは、免許を付与した者に権利を付与するという意味合いがある場合が多いことからすると、自治体の条例における制度設計においては、ほとんど考慮する場面はないであろう。

 また、条例で一定の資格的なものを定めることは考えられるが、業務独占的な資格等とすることは困難であるため、当該資格に対して免許を付与する必要はないであろう。

 したがって、自治体の条例において免許制を用いることは考えるべきではないということになる。

*1:岡本ほか前掲書P96は、「旧建設省関係の法律では講学上の許可に当たるのは「許可」の用語を用いており、宅建業法が許可ではなく「免許」の用語を用いているのは異例といえる」としている。

条例に規定すべき事項

 自治体が条例を制定しなければいけない事項は、住民等に義務を課し、又は権利を制限することである(地方自治法第14条第2項)。したがって、条例にはそれ以外の事項を定める必要はないのであるが、義務賦課・権利制限事項しか定めていない条例はほとんど存しない。

 条例は、一定の公益を実現するために制定されるものである。そして、なぜ条例を制定しなければいけないと言えば義務賦課・権利制限事項を定めるためであるから、当然、当該事項がその条例の中心的部分を占めることになる。しかし、その条例の目的とする公益を達成するためには、義務賦課・権利制限以外の事項も合わせ行うこととするのが通例である。そうした義務賦課・権利制限以外の事項も併せて条例に定めると、第1条に規定されるその条例を制定した目的を達成するための施策の全体像が明らかになり、住民にとっても分かりやすいものとなるだろう。

 以下、義務賦課・権利制限以外の事項で、条例で定めることが適当と思われる事項について、何点か取り上げる。

 1 「ごみ屋敷条例」から

 義務賦課・権利制限以外の事項を定める意義がある条例としていわゆる「ごみ屋敷条例」が挙げられることが多い。

 この条例は、言うまでもなくごみ屋敷を無くすことが直接的な目的となり、強制的なごみの撤去という措置を講ずることが条例を策定する一義的な必要性である。しかし、ごみ屋敷を無くすためには、そうした強制的な措置以上にごみ屋敷の住人に対する福祉的な措置が重要であるという事実がある。そうすると、ごみ屋敷を無くすことを目的とするごみ屋敷条例には、そうした支援措置も定めることが、条例を制定した目的を達成するために講ずる施策の全体像を明らかにするという点で適当であるということになる*1

 2 責務規定

 責務規定については、あまり深く考えることなく条例に規定することも多いと思うが、その名宛人に努力義務的なものを課すだけのものであるため、必ずしも条例で規定する必要はない。

 しかし、行政目的を達成するためには、規制するまでもないが、努力義務として一定の行為を求める必要がある場合があり、そうしたことから努力義務を定める責務規定は、条例に定める意味があることになる。

 3 経済的手法

 一定の行政目的を達成するため、補助金の交付、税の減免などの経済的手法を講じることがある。このうち、税の減免は条例事項であるが、補助金の交付は一般的には必ずしも条例で規定する必要はないと解されている。

 しかし、他の条例事項たる施策と相まって補助金の交付を行うこととする場合には、当該条例に補助金の交付に関する規定を設けることは、施策の全体像を当該条例で明らかにするという点で意味があるだろう。

 なお、税の減免については、全て税条例等で規定することをルールとしている自治体もあると思うが*2、他の条例と相まって一定の公益を実現しようとする条例を制定する場合には、その目的規定等にその旨を明記することが考えられる。

*1:板垣勝彦『「ごみ屋敷条例」に学ぶ条例づくり教室』(P82)参照

*2:国の場合は、税の特例については租税特別措置法という税に特化した法律で規定している。