自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(1)

 最近、改正規定を引用する規定が複雑な書き振りになっているのを見たが、もう少し簡略化した表記ができるのではないかという感想を持った。

 改正規定の引用は、一部改正例規を更に改正する例規を立案する際に必要な立法技術であるが、これについては、旧ブログにおいて取り上げたことがあったため、「一部改正例規を改正する例規の立案等」として16回にわたって取り上げることとする。

 <「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2007年7月28日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(1)」
  • 2007年7月29日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(2)」
  • 2007年8月4日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(3)」
  • 2007年8月5日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(4)」
  • 2007年8月11日付け記事「一部改正の例規を改正する例規の立案(5)」
  • 2008年8月22日付け記事「施行期日を書き分けた場合における不都合なこと」
  • 2008年8月29日付け記事「施行期日の書き分け(1)」
  • 2008年9月5日付け記事「施行期日の書き分け(2)」
  • 2008年9月12日付け記事「施行期日の書き分け(3)」
  • 2008年9月19日付け記事「施行期日の書き分け(4)」
  • 2009年11月20日付け記事「改正規定の特定の仕方~条の移動と追加が混在する事例」
  • 2015年12月11日付け記事「改正規定の特定の仕方~項の移動と追加が混在する事例」
  • 2016年7月8日付け記事「『同改正規定』はどこまで同じなのか」
  • 2016年7月30日付け記事「『改正規定』の一部を特定する『うち』」
  • 2017年1月6日付け記事「一部改正法令の改正における疑問」

 1 一部改正例規の一部を改正する例規の立案が必要な場合

 最初に、どのような場合に一部改正の例規の一部を改正する例規を立案することになるかについて触れておく。「A条例の一部を改正する条例」の成立後に当該条例を改正する必要が生じた場合、「A条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例」を立案するのではなく、「A条例の一部を改正する条例」が施行されることを前提として、さらに「A条例の一部を改正する条例」を立案することも考えられるからである。

 次のように、他条例の条項を引用する規定を加える条例案が既に公布されていることを想定する。

   A条例の一部を改正する条例

 A条例の一部を次のように改正する。

 第2条に次の1項を加える。

2 ‥‥B条例第3条第2項‥‥

   附 則

 この条例は、令和3年4月1日から施行する。

 この条例の公布後、施行前に、B条例の一部を改正する条例によりB条例第3条第2項が同条第3項に項ずれしたとする。この場合、A条例の一部を改正する条例により追加されたA条例第2条第2項の改正が必要になるが、通常はB条例の一部を改正する条例の附則で手当てすることになる。同条例の施行日が令和3年4月1日以降であれば、同条例の附則でA条例の一部改正としてA条例の第2条第2項を改めれば足りる。

 これに対し、B条例の一部を改正する条例の施行日が令和3年4月1日前であるときは、A条例の一部を改正する条例が施行されるときに既にB条例第3条第2項は同条第3項になっているわけだから、理屈上はA条例の一部を改正する条例を一部改正することになるであろう。だが、B条例の一部を改正する条例においてA条例第2条第2項の手当てをする規定の施行日を同日にすることができれば、B条例の一部を改正する条例の附則でA条例の一部改正として同条例の第2条第2項を改める方法でもまあ許されるのではないかと思う。

 このA条例の一部を改正する条例を一部改正しなければいけない場合としては、A条例の一部を改正する条例(以下「先行条例」という。)の施行日前に、さらにA条例第2条に1項の追加をする改正を行う必要が生じて、A条例の一部を改正する条例(以下「後行条例」という。)を立案するような場合である。この場合には、後行条例で第2条に追加する項は、第2項にするにしろ、第3項にするにしろ、先行条例の施行前に後行条例は溶け込んでいるわけだから、先行条例の改め文を改正する必要が出てくる。

 つまり、一部改正の例規の一部改正を行う必要があるのは、条、項等を追加した例規の施行前に当該例規を改正する必要が生じ、その結果、その追加した条、項等を移動しなければいけなくなった場合が典型的な例として挙げることができ、それ以外の場合では、一部改正の例規の一部改正という方法でなくても対応できる場合は結構あるのではないかと思う。