自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

規制手法~免許制

 規制手法の代表的なものは、許可制である。「許可」とは、法令による特定の行為の一般的禁止を公の機関が特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行為をいう(吉国一郎ほか『法令用語辞典(第9次改訂版)』 (P167))。

 これと同様の意味で「免許」という用語が用いられることがある。「免許」は、「許可」の意味に用いられる場合と、法令により国家の権利に属する行為につき特定の者にこれをすることができる権利を付与すること、すなわち「特許」の意味で用いられる場合とがある(吉国前掲書(P725))。法制執務に関係する書籍においては、石毛正純『法制執務詳解』のように免許については説明しないものもあるが、それは上記の免許の性格から、独立して取り上げる必要はないと判断しているのだろう。では、自治体の条例において、免許制を用いる意義はあるのだろうか。

 法律において「免許」という用語が用いられる場合としては、次のような場合を挙げることができる。

 1 需給調整規制を行う場合

 受給調整規制とは、その業界における需要と供給の関係を行政が判断して、供給が多すぎると考えるときには新規の参入等を認めなくてもよいとする規制であり、免許制が採用される代表的なものということができる。

 例えば、酒類の製造については、酒税法により免許制が採用されているが、同法第10条第11号で「酒税の保全酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ことが免許を与えないことができる要件とされ、さらに、同法第11条で「酒税の保全酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ときに、製造量・範囲に条件を付することができるとされているが、以上の条項は、酒税の保全のために、酒類の製造業における需給調整を行う条項である。

 また、従来、受給調整規制が行われていた乗合バス事業等について、「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」(平成 12 年法律第 86 号)により同規制を廃止したが、その際に「免許」という用語を「許可」に改める改正が行われている。

 2 人的要素に着目して規制を行う場合

 免許制度は、主に資格付与制度として、特定の業務又は行為が専門的な知識・技術を持たない者によって行われたときには、危険であったり、著しく不適切であったりするような場合に、一般的な禁止をした上で、一定の資格者についてのみその禁止を解除する場合に採用される(大島俊彦『法令起案マニュアル』(P266))。道路交通法に基づく運転免許などを挙げることができる。

 また、業に対する規制であっても、宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業は、免許制が採用されている。この免許基準は、宅地建物取引業を営もうとする者の取引能力や法令遵守規範意識の保持の人的要素に着目して定められており(岡本正治ほか『(三訂版)逐条解説宅地建物取引業法』(P95))、こうした事情から免許制が採用されたのではないかと思われるが、あえて「免許」という用語を用いる必要はないと考える*1

 

 以上のとおり、業規制において免許制を採用するのは、免許を付与した者に権利を付与するという意味合いがある場合が多いことからすると、自治体の条例における制度設計においては、ほとんど考慮する場面はないであろう。

 また、条例で一定の資格的なものを定めることは考えられるが、業務独占的な資格等とすることは困難であるため、当該資格に対して免許を付与する必要はないであろう。

 したがって、自治体の条例において免許制を用いることは考えるべきではないということになる。

*1:岡本ほか前掲書P96は、「旧建設省関係の法律では講学上の許可に当たるのは「許可」の用語を用いており、宅建業法が許可ではなく「免許」の用語を用いているのは異例といえる」としている。