自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

定義規定(2)

 (2) キーワードとなる用語

 定義規定では、その例規における重要な用語、すなわちキーワードとなる用語を定義することになる。

  ア 題名に使われている用語

 例規におけるキーワードの代表例としては、題名に使われている用語を挙げることができる*1。その例として、次に掲げる「特定融資枠契約に関する法律(平成11年法律第4号)」がある。

(定義)

第2条 この法律において「特定融資枠契約」とは、一定の期間及び融資の極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間において当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して手数料を支払うことを約する契約であって、意思表示により借主となる当事者の一方が契約を締結する時に次に掲げる者であるものをいう。

(1)~(6) (略)

   イ 他の例規で定義されている用語

 次の「経済協力開発機構金融支援基金への加盟に伴う措置に関する法律(昭和51年法律第38号)」の定義規定は、「経済協力開発機構金融支援基金を設立する協定」における用語を定義している。同法は、「経済協力開発機構金融支援基金を設立する協定」の円滑な履行を確保することを目的としているため、これもキーワードを定義している例と考えることができる。

(定義)

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1) 特別引出権 協定*2第3条第1項(a)に規定する特別引出権をいう。

(2) 実際上交換可能通貨 協定第7条第5項(b)に規定する実際上交換可能通貨をいう。

(3) 貸付予約 協定第7条第2項に規定する貸付予約をいう。

 上記のように他の例規の用語に係る定義規定は、当該他の例規の施行等をするために定める例規(法律の委任を受けて定める条例、条例施行規則など)におけるものであるのが一般的である。

*1:山本庸幸『実務立法演習』(P39~)では、「その法律案の題名の一部になったり……するような用語……は、第2条において定義すべきでしょう。」としている。

*2:経済協力開発機構金融支援基金を設立する協定」のこと。第2号及び第3号も同様

定義規定(1)

 今回から12回にわたり定義規定について取り上げる。私が用語の定義で特に悩んだのは、目的規定の次の第2条辺りに置く「定義規定」の中で定義すべきか、当該用語の初出の箇所で定義すべきかという点である。また、具体的な定義規定についても旧ブログで幾つか掲載してきたので、それらをまとめておくこととしたい。

<「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2007年2月17日付け記事「定義規定を置く場所」
  • 2007年3月31日付け記事「定義規定に規定する用語(1)」
  • 2007年4月1日付け記事「定義規定に規定する用語(2)」
  • 2007年4月7日付け記事「定義規定に規定する用語(3)」
  • 2007年4月14日付け記事「定義規定に規定する用語(4)」
  • 2012年6月23日付け記事「定義規定を項で書く場合と号で書く場合の基準」
  • 2013年11月9日付け記事「用語を定義するかしないか(上)」
  • 2013年11月16日付け記事「用語を定義するかしないか(下)」
  • 2016年11月12日付け記事「定義規定を準用する規定」

1 「定義規定」に規定する用語

 (1) はじめに

 定義規定というものは、定義する用語の初出の箇所で括弧を用いて書かない限り、第2条辺りにまとめて置くものだと考えがちである。実際、条数の少ない短文の法律であっても第2条に定義規定を置くものは相当数あり、平成18年12月1日現在のデータになるが、10条以下の法律で89本、5条以下の法律だと22本(3条:6本、4条:7本、5条:9本)であった*1

 ところで、どのような用語を定義規定で定義するのかについては、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P87)では、次のように記載されている。

 法令の内容が複雑であり、かつ、その法令において、その用語が重要な意義を有する場合、あるいはその用語の用いられる度数が比較的多い場合には、……定義のための規定が設けられ、その他の場合には、……法令の規定中で括弧を用いて定義することとするのが普通である。

 しかし、実際には、どの用語を定義規定に置いて、どの用語を条文の中で括弧を用いて書くかの判断に迷うことが結構あった。そこで、5条以下の条数の法律で、定義規定でどのような用語が定義されているのか見てみることで、どのような用語を定義規定で定義するかについて、一つの考え方を提示することを試みる。

*1:総務省法令データ提供システムによる。なお、目的規定等がなく第1条が定義規定になっているものや、第2条が解釈規定等になっていて第3条以下に定義規定があるものを含めている。

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(4)

4 まとめ

 今回、条例の憲法適合性及び法律適合性について風営法に関する判例を題材にして取り上げてみた。

 同一の法律に基づく複数の判例を取り上げたのは、判例によって異なった判断がなされているかどうかを確認するのが主眼であった。

 この点、条例の憲法適合性について裁判所がどのような判断するかについては、当事者の主張に左右する面が大きく、判例の傾向といったことまで確認するところまではいかなかった。判例の考え方を示すには、さらに多くの判例に当たる必要があると感じた。

 条例の法律適合性については、一見すると同一の判断がなされると思われる事案であっても、異なる判断がなされることが見受けられた。これは、千葉勝美元最高裁判事がその著書『憲法判例と裁判官の視線』(P18)で裁判官の思考方法の特徴を次のとおり述べているが、裁判所が結果の妥当性から一定の結論を導いていることによるものと考えられる。

 そもそも法的判断を行う場合、まず一般法理を定立し、それに事実を当てはめて最終的な法的結論を導き出すという三段論法的な思考方法に関しては、学者においては当然であろうが、裁判官においては、これと異なるものである。すなわち、裁判官は、法理がまずあるのではなく、事実認定とそれを基にした最も適正な事案の解決は何かをまず直観的に(リーガルマインドにより)考え、次にそれを説明し得る法理や理論、解釈を採ることができるかを検証することにより裁判を行っているのであり、両者には基本的に異なる点がある。

 したがって、条例の適法性を確保するためには、当該条例制定の必要性を明確にすることが前提となる。つまり法律では解決できない事項を解決するため、条例で規制する必要があり、それが適切な手法によっているということが何より重要なのである。

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(3)

 (2) パチンコ店の規制

 パチンコ店を規制する条例については、判例①は違法、判例②は適法と結論を異にしているが、判決が述べている内容は、次のとおりである。

区分 条例と風営法の目的 風営法が条例による独自の規制を許容しているか 条例の規制方法等
判例 風営法風俗営業に関する規制及びその適正化に主要な目的があると認められるのに対し、条例は、良好な教育環境の保持を目的とするもので、その狙いとしているところには、顕著な差がある。 条例と風営法及び風営法施行条例とは、その目的、規制方法を大きく異にし、条例の適用によって、風営法の意図する目的と効果をなんら阻害するものではないし、また、両者の間にその目的において共通する面があったとしても、風営法は各地方の実情に応じて、独自の規制をすることを容認していないとは解せられないから、条例と風営法及び風営法施行条例との間になんら矛盾抵触はない。 教育環境保全の観点から原則として建築を不同意とする対象区域を明確に限定しているうえ、同意又は不同意の処分をするに当たり、審査会に諮問するとともに、利害関係を有する者に聴聞の機会を与えるという手続を定めている。
判例 風俗環境の保持も、広く住宅、自然及び文化教育環境の保持の一部であると考えられ、風営法と本件条例の目的は、相当な部分で共通し、重なり合う。 風営法は昭和59年の改正により、風俗営業の場所的規制について全国的に一律に施行されるべき最高限度の規制を定めたものであるから、当該地方の行政需要に応じてその善良な風俗を保持し、あるいは地域的生活環境を保護しようとすることが、本来的な市町村の地方自治事務に属するとしても、もはや右目的を持って、市町村が条例により更に強度の規制をすることは、風営法及び県条例により排斥されるというべきである。 都市計画法上の商業地域以外の用途地域においては、建築を認めない。

  条例の目的については、判例①の条例の目的規定は「この条例は、青少年の健全な育成を図るため、教育環境を阻害するおそれのある建築物の建築等を規制することにより、教育環境の保全に資することを目的とする。」であり、判例②のそれは「この条例は、宝塚市環境基本条例第五条の規定に基づき、市内におけるパチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等について必要な規制を行うことにより、良好な環境を確保することを目的とする。」である。つまり、判例①の条例が教育環境を目的しているのに対し、判例②の条例が生活環境一般を目的としているという違いに過ぎない。

 条例の規制方法は、両者で大きな違いが認められる。それが、条例の目的からする違いなのかは分からないが、当然、判例②の条例の方が違法との判断に傾きやすいことは想像に難くない。

 そうすると、条例の規制の仕方から、判例①については適法、判例②については違法との結論を導くため、風営法と条例の目的については、判例①は違いがあり、判例②は重なり合うと判断し、本来違いがないはずの風営法が条例による独自の規制を認めているか否かについても判断を異にしたものと推測することができる。

 以上によると、特定の立法事実に基づき、規制方法を限定することが必要であり、審議会等の第三者機関の判断を介在させることが重要ということが言える。

 

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(2)

3 法律適合性について

 (1) ラブホテルの規制

 今回取り上げる判例は、風営法との関係が問題となることで共通している。条例及び風営法の規制対象と規制内容、そして判例の結論がどのようになっているかは、次のとおりである。

区分 規制対象 風営法の規制内容 条例の規制内容 結論
判例 パチンコ店(風俗営業 許可 許可 適法
判例 パチンコ店(風俗営業 許可 許可 違法
判例 ラブホテル(性風俗関連特殊営業) 届出 許可 適法

  規制対象は、判例①及び判例②ではパチンコ店であり、風営法では許可対象としているのに対し、判例③ではラブホテルであり、風営法では届出対象としている。一見すると、判例③における条例は、風営法より規制を強化しており、違法と判断されやすいように思うが、ラブホテルに対する規制の特殊性として次のように判断している。

 風俗営業については公安委員会の許可制を採用しているのに、風俗関連営業(現在の性風俗関連特殊営業)が届出制とされたのは、前者に比較して後者の弊害が小さいと考えられたからではなく、後者は、専ら性を商品化して営業の対象とするものであって、国が公的に許可し、適切な指導監督によって健全な営業として育成する対象とするのになじまないことから、営業自体は届出制をとって実態を把握しつつ、他方で強力な規制を施して監視し、これに違反する行為に厳しい制裁を加えるという立法態度を取ったためである。

 そして、性風俗関連特殊営業に関する風営法と条例の関係について、次のように判断している。  

風営法がどのような立法態度を取っているかについては、風営法自体が、過去において、規制の対象を順次増加させてきたことなどにかんがみると、基本的には従来の規定では規制の及ばなかった新たな形態の性風俗営業が出現した場合には、これを規制の対象に取り込む必要があると考えていることが明らかである。ラブホテル経営に関していえば、上記のような性的好奇心を高める設備を有しなくとも、異性を伴う客の出入り自体によって、周辺の生活環境、教育環境に悪影響を与えることは否定できないが、現実には、法律改正は、社会における新現象の出現に遅れがちであることは、その性質上、避けられないことであって、法律改正が完了するまでの間、これについては何らの規制を加えるべきでないというのが風営法の趣旨であると解することはできない。

 他方、普通地方公共団体は、地方自治法上、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する(2条2項)が、とりわけ、市町村は、基礎的な地方公共団体として、都道府県が処理するとされているもの以外の事務を処理するとされている(同条3項)。そして、具体的な事務内容について、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)による改正前においては、地方自治法2条3項に例示されていたところ、その1号には、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を維持すること」が、さらに7号には、「……風俗又は清潔を汚す行為の制限その他環境の整備保全、保健衛生及び風俗のじゅん化に関する事項を処理すること」が挙げられていた。そうすると、もともと、市町村などの地方公共団体が、その地域の実情に応じ、生活環境、教育環境等に悪影響を及ぼすおそれのある風俗営業に対して適切な規制を講ずることは、本来的な公共事務(固有事務)と観念されていたと考えられる。

  これを要約すると、次のとおりとなるだろう。

  1. 風営法は、これまで規制の対象を順次増加してきており、ラブホテル営業については、社会における新現象の出現に遅れがちであることからすると、法の規制以上の規制を認めない趣旨ではない。
  2. 地域の実情に応じ、生活環境、教育環境等に悪影響を及ぼすおそれのある風俗営業に対して適切な規制を講ずることは、自治体の本来的な公共事務である。

  以上により、次のとおり条例を適法としている。

  風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和59年法律76号改正後)の規制の対象外となっているラブホテル等をも規制対象とする東郷町ホテル等建築の適正化に関する条例は、同法とその目的及び規制対象においてほぼ共通し、規制手法についてはかなり異なるが重なる部分も存在するところ、同法は、それが規制の最大限であって条例による上乗せ規制・横出し規制を一切許さない趣旨とまではいえず、かえって地域の実情に応じた風俗営業の規制を行うことは地方公共団体の本来的な責務であることに照らせば、本件条例は同法の趣旨に反するとまではいえない。

 したがって、判例③によれば、ラブホテルについては、地域の実情に応じた規制の必要性を説明できれば、条例の制定が可能と一応言うことができる。

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(1)

1 はじめに

 政策法務関係の文献を見ると、条例の憲法適合性及び法律適合性について記載されていることが多い。しかし、それらの記載が条例立案時にどの程度役立つのかは疑問を感じることがある。

 そこで、風営法との関係が問題となる次の3つの判例を取り上げて、4回にわたり検討してみることとする。

2 憲法適合性について

 条例の憲法適合性については、違憲立法審査基準と判例を説明することが多いが*2、条例と憲法の関係について実際にはどのような点が問題になっているのだろうか。今回取り上げる判例について見てみると、次のとおりである。  

区分 憲法適合性について問題となっている事項
判例 憲法29条2項に反し、条例事項ではないのではないか。
判例 職業選択の自由を保障する憲法22条1項に反するのではないか。
判例 職業選択の自由、営業の自由を保障する憲法22条1項に反するのではないか。

  判例①で問題となっている事項については、ほとんど考慮する必要がないものであり、判例②と判例③で問題となっている事項についての裁判所の判断は、法を超えて条例で規制することが憲法違反とならないかという観点から行っている。

 したがって、法律適合性が問題となる条例については、問題となる法律との適合性を考慮すればよく、憲法適合性を意識する必要があるのは、法律との関係が問題とならない場合と考えてよいと思われる。

 そうすると、違憲審査基準を考慮する必要が一応あることになるのであるが、合理性の基準とかLRAの基準とか言っても抽象的であり、実際に条例立案をする場合には、判例で問題となっている条例と同様の条例を立案するのであればともかく、そうでない条例を立案する場合には、あまり役に立たないことが多いのではないだろうか。

 結局のところ留意すべきなのは、内心の自由を規制するような明確に憲法違反となるようなものは論外として、立法事実とそれを解決するための規制として合理的なものかどうかという点を配慮すればよいのではないかと思う。

 論点は多少異なるが、広島市暴走族追放条例の罰則規定が問題となった最高裁平成19年9月18日判決は、条例の規定の仕方が適切でなく、規制対象が広範囲に及び、憲法21条1項及び31条との関係で問題があると指摘されたが、結局のところ合憲限定解釈により違憲としない判断を行った。この判例に対しては、どのような場合に合憲限定解釈が許されるのか考える際に参考となる判決であるといった解説もなされているが*3、暴走族による集会が公衆に不安や恐怖を与えているという事実に対処するため、退去命令を行うという条例の内容が違憲とするまでには当たらないとしたものである。つまり、規制を必要とする立法事実があり、それに対処する規制の内容が過度にならないようにすること(比例原則)を考慮することが重要ということになるのではないだろうか。

*1:この判決は、条例上の義務の履行を求める民事訴訟は法律上の争訟と認めず却下した最高裁平成14年7月9日判決の第1審判決である。

*2:磯崎初仁『自治政策法務講義』P154~など

*3:行政判例研究会『平成19年行政関係判例解説』P37~

新型コロナウイルス対策条例を制定するのであれば

 新型コロナウイルス対策については、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は解除されたものの、東京都を中心に感染者が増加し、経済活動との両立が模索されている中でどのように行っていくのか難しい局面に入っているように思われる。

 自治体においては、法を補うなどの意図から条例を制定する例も散見されるが、法によって対応が可能であり、新たに規制を規定する条例は必要ないと判断している自治体もあるようである。

 私は、新型コロナウイルス対策に直接関わっているわけではないので、その問題点について本質的な理解が十分できているとは言えないが、規制的な措置については、現行法でかなりの内容を講ずることができると思われる。ただ、報道等で見聞する限りでは、感染経路を特定するために苦慮している面があるということであり、そのためには次のような事項を定める条例を定めるのであれば意義があるのではないかと感じている。

  1. 施設等に対し、利用者の氏名等の把握の義務付け
  2. 感染経路を特定するための調査権限の行政機関への付与。その対象は、施設等のほか、感染者も加える。
  3. 上記1及び2に対する罰則規定

  かなり批判を受けることも予想できるが、ウイルスの特性も解明されつつある現在の状況であれば、対象を限定して運用することは可能であり、必要に応じ罰則付きの守秘義務を規定することで効果的な措置を講ずることができるのではないかと感じる。