自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(1)

1 はじめに

 政策法務関係の文献を見ると、条例の憲法適合性及び法律適合性について記載されていることが多い。しかし、それらの記載が条例立案時にどの程度役立つのかは疑問を感じることがある。

 そこで、風営法との関係が問題となる次の3つの判例を取り上げて、4回にわたり検討してみることとする。

2 憲法適合性について

 条例の憲法適合性については、違憲立法審査基準と判例を説明することが多いが*2、条例と憲法の関係について実際にはどのような点が問題になっているのだろうか。今回取り上げる判例について見てみると、次のとおりである。  

区分 憲法適合性について問題となっている事項
判例 憲法29条2項に反し、条例事項ではないのではないか。
判例 職業選択の自由を保障する憲法22条1項に反するのではないか。
判例 職業選択の自由、営業の自由を保障する憲法22条1項に反するのではないか。

  判例①で問題となっている事項については、ほとんど考慮する必要がないものであり、判例②と判例③で問題となっている事項についての裁判所の判断は、法を超えて条例で規制することが憲法違反とならないかという観点から行っている。

 したがって、法律適合性が問題となる条例については、問題となる法律との適合性を考慮すればよく、憲法適合性を意識する必要があるのは、法律との関係が問題とならない場合と考えてよいと思われる。

 そうすると、違憲審査基準を考慮する必要が一応あることになるのであるが、合理性の基準とかLRAの基準とか言っても抽象的であり、実際に条例立案をする場合には、判例で問題となっている条例と同様の条例を立案するのであればともかく、そうでない条例を立案する場合には、あまり役に立たないことが多いのではないだろうか。

 結局のところ留意すべきなのは、内心の自由を規制するような明確に憲法違反となるようなものは論外として、立法事実とそれを解決するための規制として合理的なものかどうかという点を配慮すればよいのではないかと思う。

 論点は多少異なるが、広島市暴走族追放条例の罰則規定が問題となった最高裁平成19年9月18日判決は、条例の規定の仕方が適切でなく、規制対象が広範囲に及び、憲法21条1項及び31条との関係で問題があると指摘されたが、結局のところ合憲限定解釈により違憲としない判断を行った。この判例に対しては、どのような場合に合憲限定解釈が許されるのか考える際に参考となる判決であるといった解説もなされているが*3、暴走族による集会が公衆に不安や恐怖を与えているという事実に対処するため、退去命令を行うという条例の内容が違憲とするまでには当たらないとしたものである。つまり、規制を必要とする立法事実があり、それに対処する規制の内容が過度にならないようにすること(比例原則)を考慮することが重要ということになるのではないだろうか。

*1:この判決は、条例上の義務の履行を求める民事訴訟は法律上の争訟と認めず却下した最高裁平成14年7月9日判決の第1審判決である。

*2:磯崎初仁『自治政策法務講義』P154~など

*3:行政判例研究会『平成19年行政関係判例解説』P37~