自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(3)

 (2) パチンコ店の規制

 パチンコ店を規制する条例については、判例①は違法、判例②は適法と結論を異にしているが、判決が述べている内容は、次のとおりである。

区分 条例と風営法の目的 風営法が条例による独自の規制を許容しているか 条例の規制方法等
判例 風営法風俗営業に関する規制及びその適正化に主要な目的があると認められるのに対し、条例は、良好な教育環境の保持を目的とするもので、その狙いとしているところには、顕著な差がある。 条例と風営法及び風営法施行条例とは、その目的、規制方法を大きく異にし、条例の適用によって、風営法の意図する目的と効果をなんら阻害するものではないし、また、両者の間にその目的において共通する面があったとしても、風営法は各地方の実情に応じて、独自の規制をすることを容認していないとは解せられないから、条例と風営法及び風営法施行条例との間になんら矛盾抵触はない。 教育環境保全の観点から原則として建築を不同意とする対象区域を明確に限定しているうえ、同意又は不同意の処分をするに当たり、審査会に諮問するとともに、利害関係を有する者に聴聞の機会を与えるという手続を定めている。
判例 風俗環境の保持も、広く住宅、自然及び文化教育環境の保持の一部であると考えられ、風営法と本件条例の目的は、相当な部分で共通し、重なり合う。 風営法は昭和59年の改正により、風俗営業の場所的規制について全国的に一律に施行されるべき最高限度の規制を定めたものであるから、当該地方の行政需要に応じてその善良な風俗を保持し、あるいは地域的生活環境を保護しようとすることが、本来的な市町村の地方自治事務に属するとしても、もはや右目的を持って、市町村が条例により更に強度の規制をすることは、風営法及び県条例により排斥されるというべきである。 都市計画法上の商業地域以外の用途地域においては、建築を認めない。

  条例の目的については、判例①の条例の目的規定は「この条例は、青少年の健全な育成を図るため、教育環境を阻害するおそれのある建築物の建築等を規制することにより、教育環境の保全に資することを目的とする。」であり、判例②のそれは「この条例は、宝塚市環境基本条例第五条の規定に基づき、市内におけるパチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等について必要な規制を行うことにより、良好な環境を確保することを目的とする。」である。つまり、判例①の条例が教育環境を目的しているのに対し、判例②の条例が生活環境一般を目的としているという違いに過ぎない。

 条例の規制方法は、両者で大きな違いが認められる。それが、条例の目的からする違いなのかは分からないが、当然、判例②の条例の方が違法との判断に傾きやすいことは想像に難くない。

 そうすると、条例の規制の仕方から、判例①については適法、判例②については違法との結論を導くため、風営法と条例の目的については、判例①は違いがあり、判例②は重なり合うと判断し、本来違いがないはずの風営法が条例による独自の規制を認めているか否かについても判断を異にしたものと推測することができる。

 以上によると、特定の立法事実に基づき、規制方法を限定することが必要であり、審議会等の第三者機関の判断を介在させることが重要ということが言える。