自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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定義規定(6)

 (5) 総括

 定義規定を設ける場合とは、その例規のキーワードとなる用語を定義する必要がある場合である。逆に定義するキーワードがなければ、比較的多く用いる用語があったとしても定義規定は設けないのである(したがって、定義する必要がある場合は、その文言が出てくる箇所で定義することになる。ただし、実際には頻繁に出てくる用語は、キーワードであることが多いとは思う)。キーワードかどうかについては、その例規の内容で比較的容易に判断できる。

 そして、定義規定で、キーワードと併せて定義する用語としては、次のようなものが考えられる。  

  • その例規において、比較的多く使われる用語
  • 定義規定中の用語で定義する必要があるもの
  • 例規で定義されている用語

 ただし、キーワードとは考えにくい用語のみを定義規定で定義している例もないわけではない。次に掲げる「阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法」がその例である。

阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法(平成7年法律第19号)
(定義)

第2条 この法律において「法令」とは、法律、政令又は国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第12条第1項若しくは第13条第1項の命令若しくは同法第14条第1項の告示をいう。

2 この法律において「行政機関」とは、国家行政組織法第3条第2項に規定する国の行政機関として置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又は地方公共団体の機関をいう。

(特定権利利益に係る期間の延長に関する措置)

第3条 法令に基づく行政庁の処分(平成7年1月17日以前に行ったものに限る。)により付与された権利その他の利益であり、又は法令に基づき何らかの利益を付与する処分その他の行為を当該行為に係る権限を有する行政機関に求めることができる権利であって、その存続期間が同日以降に満了するもの(以下「特定権利利益」という。)について、これらの法令の施行に関する事務を所管する国の行政機関(国家行政組織法第3条第2項に規定する委員会を除く。)の長及び同項に規定する委員会は、阪神・淡路大震災(以下「震災」という。)により被害を受けた者の特定権利利益であって、その存続期間が既に満了したものを回復させ、又はその存続期間が満了前であるものを保全するため必要があると認めるときは、その満了日を同年6月30日を限度として延長する措置を、対象となる特定権利利益ごとに、地域を単位とした当該措置の対象者及び延長後の満了日を告示により指定して行うことができる。

2 前項の規定による延長の措置のほか、同項に規定する行政庁又は行政機関は、震災により被害を受けた者であって、理由を記載した書面によりその特定権利利益に係る満了日の延長の申出を行ったものについて、平成7年6月30日までの期日を指定してその満了日を延長することができる。

3 (略)

  この定義規定は、キーワードらしい用語を定義していないことはともかくとして、そこで定義している「行政機関」という用語の第3条第1項や第2項での用い方をみると、定義規定で定義してどの程度意味があるのかという感じがする。

 ちなみに、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」においては、定義規定は置いておらず、「阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法」第3条に相当する規定は次のようにしている。

特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成8年法律第85号)

(行政上の権利利益に係る満了日の延長に関する措置)

第3条 次に掲げる権利利益(以下「特定権利利益」という。)に係る法律、政令又は内閣府設置法(平成11年法律第89号)第7条第3項若しくは第58条第4項(宮内庁法(昭和22年法律第70号)第18条第1項において準用する場合を含む。)若しくは国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第12条第1項若しくは第13条第1項の命令若しくは内閣府設置法第7条第5項若しくは第58条第6項若しくは宮内庁法第8条第5項若しくは国家行政組織法第14条第1項の告示(以下「法令」という。)の施行に関する事務を所管する国の行政機関(内閣府宮内庁並びに内閣府設置法第49条第1項及び第2項に規定する機関並びに国家行政組織法第3条第2項に規定する機関をいう。以下同じ。)の長(当該国の行政機関が内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項又は国家行政組織法第3条第2項に規定する委員会である場合にあっては、当該委員会)は、特定非常災害の被害者の特定権利利益であってその存続期間が満了前であるものを保全し、又は当該特定権利利益であってその存続期間が既に満了したものを回復させるため必要があると認めるときは、特定非常災害発生日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日(以下「延長期日」という。)を限度として、これらの特定権利利益に係る満了日を延長する措置をとることができる。

(1) 法令に基づく行政庁の処分(特定非常災害発生日以前に行ったものに限る。)により付与された権利その他の利益であって、その存続期間が特定非常災害発生日以後に満了するもの

(2) 法令に基づき何らかの利益を付与する処分その他の行為を当該行為に係る権限を有する行政機関(国の行政機関及びこれらに置かれる機関並びに地方公共団体の機関に限る。)に求めることができる権利であって、その存続期間が特定非常災害発生日以後に満了するもの

2 前項の規定による延長の措置は、告示により、当該措置の対象となる特定権利利益の根拠となる法令の条項ごとに、地域を単位として、当該措置の対象者及び当該措置による延長後の満了日を指定して行うものとする。

3 第1項の規定による延長の措置のほか、同項第1号の行政庁又は同項第2号の行政機関(次項において「行政庁等」という。)は、特定非常災害の被害者であって、その特定権利利益について保全又は回復を必要とする理由を記載した書面により満了日の延長の申出を行ったものについて、延長期日までの期日を指定してその満了日を延長することができる。

4 延長期日が定められた後、第1項又は前項の規定による満了日の延長の措置を延長期日の翌日以後においても特に継続して実施する必要があると認められるときは、第1項の国の行政機関の長又は行政庁等は、同項又は前項の例に準じ、特定権利利益の根拠となる法令の条項ごとに新たに政令で定める日を限度として、当該特定権利利益に係る満了日を更に延長する措置をとることができる。

5 (略)

  「阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法」とは、その立案等にかけた時間も違うだろうし、法律全体の規定事項も違うので一概には言えないだろうが、やはり同法の書き方はあまりよくなかったということであろうか。