2 定義すべきと考えられる用語を定義しない事例等
(1) 定義すべきと考えられる用語を定義しない事例
一見すると当然定義すべきと思われる用語を定義していない例がある。
例えば、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」では、「子どもの貧困」や「子ども」について定義されていないことについて、立法担当者は、次のように説明している。
本法では「子どもの貧困」の定義を置いていないが、それは本法で子どもの貧困に対して広く施策を講じていくために、子どもの貧困を定義付けて対策を限定して狭くとらえることを避けるためであるとされている。また「子ども」が何歳までを指すのかについても定義を置いていないが、それは支援が必要な子どもに必要な支援が届くようにするため、必要な支援・制度ごとにその趣旨を踏まえて対象者を決めるためであり、仮に定義を置いて年齢を明示するとそこを超えた人への支援を否定することになるからであるとされている(衆議院法制局第五部第二課 近藤怜「教育を受ける機会を保障し、『貧困の連鎖』を断ち切るための『子どもの貧困対策法』の制定~子どもの貧困対策の推進に関する法律」『時の法令(NO.1938)』(P28))。
この事例は、弾力的な対応をするためにあえて用語の意義を明確にしたくないという意図によるものである。
また、「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」では、「再生医療」という用語が定義されていないが、このことについて立法担当者は、次のように説明している。
本法は再生医療についての理念や施策の方向性を示す基本法なので、「再生医療」という言葉の定義は置かれていない(衆議院法制局第五部第二課 近藤怜「iPS細胞などを使った再生医療を推進~再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」『時の法令(NO.1937)』(P8~))。*1
いわゆる基本法的なものについては、用語の定義を厳密に行わなくても支障がないとは言えると思うが、議員立法であるという事情もあるのかもしれない。