(2) 同一の用語で定義する事例と定義しない事例
ある法律で定義された用語を同一の意味で使う場合には、当該法律の定義規定をそのまま引用するなどの形で定義するのが一般的であるが、なかには定義していない場合もある。そうした用語の例として、「男女共同参画」という用語を取り上げる。
「男女共同参画」という用語が使われている法律としては、まず男女共同参画社会基本法を挙げることができる。この法律は基本法であるが、前回取り上げた「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」における「再生医療」という用語とは異なり、「男女共同参画社会の形成」という言葉について「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう」という定義が置かれている(同法第2条第1号)。基本法でありながら定義が置かれているのは、その概念が当時は必ずしも明確ではなかったからではないかと思われる。
しかし、他に「男女共同参画」という用語が使われている次の7本の法律でこの用語を定義しているものは、ほとんどない。
これらの法律のうち、「男女共同参画」という用語を定義しているものは、内閣府設置法のみである。では、同法以外の法律で「男女共同参画」という用語がどのように用いられているかであるが、それは次のとおりである。
- 少子化社会対策基本法・国家公務員制度改革基本法:「男女共同参画社会の形成」という用語を基本理念の規定(前者が第2条第6号、後者が第2条第1項)で用いている*1。
- 特定非営利活動促進法・公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律:「男女共同参画社会の形成」という用語を、それぞれの法律による法人となるための活動内容を定める規定(いずれも別表)の中で用いている。
- 独立行政法人国立女性教育会館法:「男女共同参画社会の形成」という用語を、この会館の目的の規定(第3条)の中で用いている。
- 中央省庁等改革基本法:は、「男女共同参画社会」という用語を、内閣府の基本的な性格及び任務を定める規定(第10条第2項第1号)の中で用いている。
男女共同参画社会基本法では、「男女共同参画社会の形成」という用語で定義されているため、同じ形で用いている例が多いものの、単に「男女共同参画」という用語を用いている例もあり、これは「男女共同参画」という用語が一般に定着してきているからであると言えるのではないだろうか。いずれにしろ、上記の法律であえて定義していない一番の理由は、いずれも用語を厳密な意味で使う必要がない規定の中で用いているためであろう。
最後に「内閣府設置法」であるが、この法律では第3条第2項と第4条第1項第9号の2つの条で次のとおり「男女共同参画社会の形成」という用語を用いているが、前者は定義していないにもかかわらず、後者は定義している。
(任務)
第3条 (略)
2 前項に定めるもののほか、内閣府は、皇室、栄典及び公式制度に関する事務その他の国として行うべき事務の適切な遂行、男女共同参画社会の形成の促進、市民活動の促進、沖縄の振興及び開発、北方領土問題の解決の促進、災害からの国民の保護、事業者間の公正かつ自由な競争の促進、国の治安の確保、金融の適切な機能の確保、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けた施策の推進、政府の施策の実施を支援するための基盤の整備並びに経済その他の広範な分野に関係する施策に関する政府全体の見地からの関係行政機関の連携の確保を図るとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務とする。
3 (略)
(所掌事務)
第4条 内閣府は、前条第1項の任務を達成するため、行政各部の施策の統一を図るために必要となる次に掲げる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務(内閣官房が行う内閣法(昭和22年法律第5号)第12条第2項第2号に掲げる事務を除く。)をつかさどる。
(1)~(8) (略)
(9) 男女共同参画社会の形成(男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)第2条第1号に規定するものをいう。以下同じ。)の促進を図るための基本的な政策に関する事項
(10)~(18) (略)
2 (略)
第4条第1項第9号で定義しているのは、それが具体的な所掌事務を定める規定であり、一般的に任務を規定する規定とは異なって、厳密にその意味を確定しておく必要があったからではないかと思われる。