自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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分限事由を追加する改正条例について

 今回は、現在記載しているシリーズを中断して、話題になっている分限事由を追加する改正条例について取り上げる。

 それは、公立小学校で起きた教諭によるいじめ問題で、加害者の教諭4人を有給休暇を取らせ自宅で謹慎させたことについて寄せられた批判を受け、次に掲げる場合を分限休職することができる事由とし、給与を支払わないこととしたもので、10月29日に成立した。

 重大な非違行為があり、起訴されるおそれがあると認められる職員であつて、当該職員が引き続き職務に従事することにより、公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合

 この改正条例について、SNSで次のような意見が掲載されていた。

  1. 非違行為が施行前でも適用されるのか
  2. 地方公務員法28条の趣旨に反するのではないだろうか

 この2つの意見について、私なりの見解を記載してみたい。

 1 「非違行為が施行前でも適用されるのか」という意見について

 改正条例は、公布日施行とされており、特別の経過規定は置いていない。

 分限処分とは、公務能率を維持することを目的として、職員が職務を十分に果たし得ないことを理由に行う処分である(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P514)参照)。つまり、職員の非違行為に対して行うものではなく、それによって生じる一定の状態を回避するために行うものであり、この点で懲戒処分と性格を異にするのである。

 したがって、改正条例施行前のいじめ行為が直接の原因であるとしても、改正条例施行後に職員が職務を十分に果たしていないのであれば、分限処分は可能と考えるべきだろう。

 2 「地方公務員法28条の趣旨に反するのではないだろうか」という意見について

 地方公務員法第27条第2項は、「職員は、……この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職され……ない」としている。同法第28条は分限事由を定める規定であるが、分限休職の事由は条例で定めることができるため、違法云々という問題は、直接的には生じない。

 実際問題として、当該職員の自宅謹慎とする方法として有給休暇を用いたことについて公務に支障が生じるほどの批判があり、それを解消するため上記の事由を分限休職の事由としたことは、任命権者の裁量の範囲内ではないかと思う。

 ただし、表記等に気になるところがあり、私であれば次のように規定することを考えるだろう。 

起訴される可能性があるような重大な非違行為があり、当該行為を行った職員が引き続き職務に従事することにより、公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合