(3) 権限委譲したことが適切と思われないもの
いわゆる一括法により条例事項とされたものについては、その移譲先が適切とは思えないもの、例えば都道府県に移譲された事項が本来であれば市町村に移譲されるべきであったのではと思えるものがある*1。
さらに、社会福祉の分野において、本来国が定めるべきことまで自治体に権限を委譲したとの批判もある。
例えば、第1次一括法による障害者自立支援法(現在の「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」。以下特に両者を区別することなく「法」という。)の改正内容は、次のとおりである。
改正後 | 改正前 |
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(指定障害者支援施設等の基準) 第44条 指定障害者支援施設等の設置者は、都道府県の条例で定める基準に従い、施設障害福祉サービスに従事する従業者を有しなければならない。 2 指定障害者支援施設等の設置者は、都道府県の条例で定める指定障害者支援施設等の設備及び運営に関する基準に従い、施設障害福祉サービスを提供しなければならない。 3・4 (略) (施設の基準) 第84条 都道府県は、障害者支援施設の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。 2 (略) 3 国、都道府県及び市町村以外の者が設置する障害者支援施設については、第1項の基準を社会福祉法第65条第1項の最低基準とみなして、同法第62条第4項、第65条第2項及び第71条の規定を適用する。 |
(指定障害者支援施設等の基準) 第44条 指定障害者支援施設等の設置者は、厚生労働省令で定める基準に従い、施設障害福祉サービスに従事する従業者を有しなければならない。 2 指定障害者支援施設等の設置者は、厚生労働省令で定める指定障害者支援施設等の設備及び運営に関する基準に従い、施設障害福祉サービスを提供しなければならない。 3・4 (略) (施設の基準) 第84条 厚生労働大臣は、障害者支援施設の設備及び運営について、基準を定めなければならない。 2 国、都道府県及び市町村以外の者が設置する障害者支援施設については、前項の基準を社会福祉法第65条第1項の最低基準とみなして、同法第62条第4項、第65条第2項及び第71条の規定を適用する。 |
障害者支援施設の設備及び運営については、法第44条第2項の基準と法第84条第1項の基準とを都道府県が定めることとされた*2。
このうち、後者の基準は、最低基準と言われているものである。この最低基準は、憲法第25条に基づく国によるナショナル・ミニマムの保障義務からすると、国が定めるべきものであるというのが上記の批判の内容である*3。
最低基準を定める権限を自治体に委譲することまでは必ずしも否定されるものではないのだろうが、国が定めることとした方は理にはかなっているだろう。そして、自治体に移譲するのであれば、その最低基準を条例で定めるに当たってよるべき省令の基準は、それがナショナル・ミニマムを保障するというのであれば、全て従うべき基準とすべきと思うのだが、参酌基準も含まれている点は理解ができない。
そもそも、国によるナショナル・ミニマムの保障としてあえて最低基準を定める意味が私にはよく分からないのだが、実際、障害者が障害者支援施設でサービスを受けようとする場合は特定障害者特別給付費の支給を受けようとするのが通常であり、そのためには指定障害者支援施設でサービスを受ける必要があるため(法第34条第1項)、実務では最低基準は必要がないことになる。
仮に最低基準を定めるのであれば、立法論としては国が定めることとし、法第44条第2項の基準は、当然最低基準を上回る必要があるので、それを超えてどのような基準とするかについてはことさら国が省令で基準を定める必要はないのではないだろうか。
さらに、この基準の制定が都道府県の事務とされたのは、指定障害者支援施設の指定の事務が都道府県の事務であるためであろうが、上記の特定障害者特別給付費の支給は市町村が行うものである以上、その指定も含めて市町村の事務とするという考え方もあるように思われる。
*1:例えば、地方自治法における自治事務の定義は、「地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう」(第2条第8項)というように「地方公共団体が処理する事務」とされ、「地方公共団体の事務」とされていないことに対する批判もあるが、そもそも法律のレベルでは、本来どの自治体がその事務を担うべきかという視点が欠けているせいであるかもしれない。
*2:法第44条第2項の指定障害者支援施設は、都道府県が指定する障害者支援施設である(法第29条第1項)。なお、「指定障害者支援施設等」とされているが、この「等」は、独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が設置する施設が含まれていることによるものである(法第29条第2項)。