自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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附属機関(3)

4 自ら自治体の意思を決定・表示する附属機関の設置の可否

 自治体の附属機関は諮問機関であるべきで、自ら自治体の意思を決定・表示する附属機関は設置できないという見解があり、むしろ一般的な解釈であるように思われる*1

 法定の附属機関の中には、例えば建築基準法第78条第1項に規定する建築審査会のように、不服申立てに対する裁決を住民に対して直接行うものもあるが、こうした機関は本来執行機関であるべきであり、その設置は地方公共団体の基本的な組織に関するものであって、法律でしか規定できないという考えによっているように思われる*2

 しかし、法律で執行機関的な附属機関を設けることができるのであれば、附属機関の性質は諮問機関であるという理屈は成り立たなくなる。現に平成11年の改正前の地方自治法別表第7に、附属機関として建築審査会が掲げられていたことからも明らかだろう*3。また、総務省筋の執行機関的な附属機関を設けることができないという見解も、私論として述べられているものであり、その理由も、法律論ではなく、行政責任の所在が不明確になるといったものである*4*5

 そうすると、自ら自治体の意思を決定・表示する附属機関は、扱うことが適当でない事務もあるが、一般的に設置を否定することはできないように思われる。例えば、兼子仁教授は、第三者不服審査裁決機関は執行機関たる委員会に必ず当たるものかどうかについて、人事委員会と固定資産評価審査委員会について、前者は職員採用試験等を行う人事行政機関でもあること、後者は固定資産課税における資産評価の特別な意義から土地収用に伴う補償算定に任ずる収用委員会に類する位置付けから、執行機関扱いにしているのではないかとしている*6。したがって、他の執行機関並みの事務を扱うなどの特別な理由がなければ、自治体の意思を決定・表示する附属機関を認めてもよいのではないだろうか。

 5 附属機関に関する条例の提案権

 附属機関に関する条例の提案権は、次のように長と議員の双方が有していると解されている。

 附属機関は、地方公共団体の執行機関の要請により、その行政執行のための必要な資料の提供等いわば行政執行の前提として必要な調停、審査、審議、調査等を行うことを職務とする機関であり、執行機関のための補助機関ではあるが、いわゆる長の権限の分掌組織ではなく、一般の部課、出先機関等とは異なった独立性を有するものであること、及び特に長に提案権限を専属させる明文の規定がなく、条理上も長に専属するものとはいい切れないことから、条例提案権の原則から鑑みて、設問の条例提案権は、長及び議員の双方に属するものと解される(実務地方自治研究会『Q&A実務地方自治法―行政・財務―』(P847~))。

 上記の記載にあるように、長に提案権を専属させる場合には、「普通地方公共団体の長は、条例の定めるところにより、……する」という規定の仕方がなされるところ、附属機関についてはそのような規定の仕方をしていない。しかし、附属機関は、長以外の執行機関にも置くことができるので、そのような規定の仕方ができないことは言うまでもない。

 そうすると、附属機関の性格から判断するべきかと思うが、附属機関は、あくまでも執行機関に属する機関であることに鑑みると*7、議員に提案権を認める意義はないだろう。

 ただし、諮問機関以外に自ら自治体の意思を決定・表示する附属機関を認めるのであれば、そうした附属機関については、その独立性に鑑み、議員提出も認めることも考えられる。つまり、こうした附属機関の条例設置を認める限りで、附属機関に関する条例の提案権は長と議員の双方が有しているという見解が正当化できるように思われる。

*1:宇賀克也『地方自治法概説(第2版)』(P187)には、情報公開に関する附属期間について「地方公共団体が情報公開条例で審査会を設置する場合も、執行機関法定主義のゆえに、条例で裁決機関としての審査会を設けることができず、そのため、諮問機関としての審査会を設置するにとどめざるをえない。」と記載されている。

*2:碓井光明『行政不服審査機関の研究』(P294)参照

*3:碓井前掲書(P296~)参照

*4:碓井前掲書(P295)参照

*5:兼子仁『自治体法学』(P102)は、「自治体の自治事務に関し第三者不服審査裁決機関が設けられようとする場合、それが法律によれば地方自治法上の『附属機関』に含められるが、同じことを条例ではできないというのでは、自治体にとってずいぶん主体性のない話である」とする。

*6:兼子前掲書(P100)参照

*7:地方自治法第202条の3第3項は、「附属機関の庶務は、法律又はこれに基く政令に特別の定があるものを除く外、その属する執行機関において掌るものとする。」としている。