自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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省令レベルにおける新旧対照表方式の整理(上)

 今回から3回に渡り、現在記載しているシリーズを中断して、省令レベルにおける新旧対照表方式について取り上げる。

 国において省令レベルの改正方法として新旧対照表方式が用いられていることについては、旧ブログでは2016年6月24日付け記事「省令で新旧対照表方式による改正」で触れた程度であるが、その後、榊原志俊「立法技術に関する研究Ⅲ―新旧対照表に関する諸問題―」(愛知学院大学論叢法学研究第56巻第1・2号)に接し、最近では元総務省官僚の磯崎陽輔氏のブログで「新旧対照表方式をめぐって」と題する記事を拝見した。

 そこで、国における新旧対照表方式の取組に関する経緯と省令レベルにおける新旧対照表方式の違いについて、一応の整理をしておく。

 1 国における新旧対照表方式の取組に関する経緯

 国における新旧対照表方式の取組については、榊原前掲論文によると、平成14年の自民党のe-Japan重点計画特命委員会において改め文の廃止が俎上に上がり、平成15年12月9日の同委員会において改め文の原則廃止について検討がなされたことに始まる。

 こうした政治レベルの動向を踏まえ、内閣法制局は、平成15年9月1日付けで各府省庁に対して新旧対照表方式での法令改正方式について意見照会を行ったが、その際「改正対照表を用いた改正方式について(案)」及び「司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律(新改正方式のイメージサンプル)」を資料として添付した。これが、内閣法制局の新旧対照表方式の検討結果と考えられる*1

 しかし、同委員会のその後の動向は判然とせず、改め文方式の扱いについても沙汰止みとなってしまったようである。

 省令レベルでの新旧対照表方式の導入については、河野太郎衆議院議員が行革担当大臣を務めていた時に主張され、同議員は、国家公安委員長を兼務していたため、国家公安委員会規則を原則として新旧対照表で改正することとし、閣議後の閣僚懇談会で各府省庁においてもその導入を依頼したことが契機となり、自民党の行革推進本部とも連携して取組を進め、現在に至っている。

 2 省令レベルにおける新旧対照表方式の違い

 省令レベルにおいて用いられている新旧対照表方式は、現在統一されてはいない。磯崎氏は、次の3つの方法があるとしている*2

  1. 二重傍線などを用いて従来の新旧対照表とは異なる特殊な新旧対照表を用いる方式
  2. 通常の新旧対照表を用いて改正する方式
  3. 通常の新旧対照表を用いるが、改正文を「〇〇施行規則の一部を次の表のように改正する。」とする方式

  磯崎氏は、①の方式を約半数の省庁が、②の方式も約半数の省庁が用いており、③の方式は厚生労働省のみが用いているとしている。しかし、仔細に見ると、条の全部改正のような場合に傍線に代えて二重傍線を用いているが、それ以外は通常の新旧対照表と同一のような方式もある。

 また、新旧対照表を置く位置についても違いがあり、本則に置くのではなく、本則は改正文のみとし、新旧対照表は別表に置く例がある。

 このような状況を踏まえると、分類の仕方としては、①新旧対照表の作り方、②改正文の書き方、③新旧対照表を置く位置とし、それぞれどのような方法があるのか見ていくべきだと思うが、ここでは、便宜的に次のように分類して、次回以降順次触れていくこととする。

  1.  改正部分の表記に二重傍線など従来は用いていない符号を用いて新旧対照表を作成する方式
  2. 改正部分の表記に従来のように傍線のみを用いて新旧対照表を作成する方式
  3. 新旧対照表を別表として置く方式

*1:内閣法制局長官である山本庸幸氏は、その著書『実務立法技術』(P402)で「内閣法制局としても、その具体的な方法を検討したこともある」と記載しているが、このことを指しているのだと思われる。

*2:実際には、「府省令の改正には、現在、4つの方法が行われています」として、その一つに「従来の改め文方式」を挙げている。これが新旧対照表方式ではないことは言うまでもないが、なかには併せて表の全部改正を行うような場合には、新旧対照表方式と改め文方式を併用しているものがある。新旧対照表方式を考える場合には、こうしたものも対象となってくるが、今回はあえて取り上げないこととする。