自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

支払時期の定めがない契約代金の支払期限

 自治体における契約代金の支払いは、契約書等により支払時期を明らかにされていない場合には、相手方が請求した日から15日以内とされているが(「政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和24年法律第256号。以下「法」という。)」第14条において準用する法第10条)、この期間について殊更気にする職員も見かけるところである。法の関係規定は、次のとおりである。

 (政府契約の必要的内容事項)

第4条 政府契約の当事者は、前条の趣旨に従い、その契約の締結に際しては、給付の内容、対価の額、給付の完了の時期その他必要な事項のほか、次に掲げる事項を書面(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条において同じ。)(財務省令で定めるものに限る。)を含む。第10条において同じ。)により明らかにしなければならない。ただし、他の法令により契約書(その作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。)の作成を省略することができるものについては、この限りでない。

 (1) 契約の目的たる給付の完了の確認又は検査の時期

 (2) 対価の支払の時期

 (3) 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

 (4) 契約に関する紛争の解決方法

 

 (定をしなかつた場合)

第10条 政府契約の当事者が第4条ただし書の規定により、同条第1号から第3号までに掲げる事項を書面により明らかにしないときは、同条第1号の時期は、相手方が給付を終了し国がその旨の通知を受けた日から10日以内の日、同条第2号の時期は、相手方が支払請求をした日から15日以内の日と定めたものとみなし、同条第3号中国が支払時期までに対価を支払わない場合の遅延利息の額は、第八条の計算の例に準じ同条第1項の財務大臣の決定する率をもつて計算した金額と定めたものとみなす。政府契約の当事者が第四条ただし書の場合を除き同条第1号から第3号までに掲げる事項を書面により明らかにしないときも同様とする。

 

 (この法律の準用)

第14条 この法律(第12条及び前条第2項を除く。)の規定は、地方公共団体のなす契約に準用する。

 この15日以内という期間を計算する際に請求した日を含むのか(初日算入)について、民法上の原則では初日不算入と考えるべきところ(民法第140条本文)、実務では初日算入とする取扱いが一般的のようである。これは、昭和25年4月17日付けで大蔵省理財局長が各省(庁)官房会計課長宛に発出した「政府契約の支払遅延防止等に関する法律の運用方針(理国第140号)」第5の一に、給付完了の確認又は検査の時期についてであるが、次のように期間計算は初日算入とすることとされているのではないかと思われる。

 「通知を受けた日」とは、通知が国の支配圏内に到達した日であり、所定の執務時間内である限り1日として算入される。民法の規定によれば、期間の計算については、法令、裁判上の命令又は法律行為に別段の定めのある場合の外、その期間が午前零時より始まる場合を除いては、暦法的計算により初日を算入しないのであるが、この法律の規定においては、この条項(第5条)における場合と、他の条項における場合(第8条における「支払時期到来の日の翌日」又は第11条における「その期限の翌日」)とにおいて、その用法を区分しておるので、法令に別段の定のある場合として、通知を受けた日は、計算上1日に算入されるものである。

 しかし、現在の立法技術を承知している者であれば、初日算入とする場合の「……から起算して」という文言がないので、普通に初日不算入と考えるだろう。

 仮に、立法当時はそうした立法技術が一般的でなかったとしても、そもそも法の第8条や第11条に定める期間については、民法第140条ただし書の規定により初日算入と考えるべき場合であり、その翌日からとしたいために結果として表記を変えただけのことであって、法第10条の期間は、原則どおり初日不算入と解するのが普通の読み方のような気がする。

 ただし、期限内に支払いができない場合であっても、その額が100円以上になる場合に遅延利息を支払わなければいけないだけのことであるから(法第8条)、1日にこだわってみてもそれほど意味があることとは思えないので、あえて実務における取扱いを変える必要もないのだろう。

 もちろん、法第10条の規定は、疑義を生じないようにきちんと書き直すことが適当ではある。さらに、履行がなされた後の手続は、給付完了の確認又は検査→代金の請求→支払いという順序でなされることを想定しているが(法第6条第1項参照)、消耗品の購入の場合等は、相手方は納品の際に請求書を持参することも普通にあるだろう。そうしたことも含め、本法は、規定を整備することが必要な法律であるとは言える。

手数料と実費徴収

 「普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務で特定の者のためにするものにつき、手数料を徴収することができる」こととされている(自治法227条)。この「普通地方公共団体の事務で特定の者のためにするもの」とは、当然、法令のほか自治体の条例・規則等に基づく事務を想定しているものと思われる*1。そして、手数料に関する事項は、条例事項とされている(自治法228条1項)。

 これに対し、資料のコピー代等、条例に基づかないいわゆる「実費徴収」というものがある。これは、私法上の契約関係により実費経費を徴収するものとされているが、この実費徴収と手数料は相反するものではなく、例えば図書館の図書、記録その他の資料の複写に係る経費について、手数料として徴収しても、実費徴収として徴収してもよいこととされている*2

 「実費徴収」をすることができる経費について情報公開条例に基づく行政文書の開示による費用について考えてみる。これは、開示決定に要した費用(処理に要した人件費が主になると思われる)と、コピー代や記録媒体の費用等の開示に伴って付随的に生じる費用(コピー等に要した人件費相当分も含めてよいだろう)に区分することができる。そして、前者については条例で手数料という形で徴収する必要があるが、後者については、条例に規定することなく、実費徴収という形で徴収することが可能とする見解が実務で一般的に採られている見解であろう*3*4

 以上により、「実費徴収」として徴収することが可能な経費は、法令等に根拠を要しないサービスに係る経費は当然として、法令等の規定を前提とするものであっても、あくまでもそれに付随して必要になる物に伴って生じる経費であると言えるのではないだろうか。

*1:「事務の性質が、それを利用するかどうかを利用者の自由な意思に委ねているものである場合は、その手数料の徴収については、必ずしも法令に根拠のあることを要しない(林修三『例解立法技術』(P319)」とされているが、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づく行政文書の開示請求に係る手数料(同法16条)のように、法令に基づく事務について徴収する手数料は、法令で明記することが多いのではないかと思われる。

*2:実務地方自治研究会『Q&A実務地方自治法』P3158~

*3:実費徴収という形を採る団体であっても、徴収する根拠は「費用負担」といった見出しで条例で規定を置く団体が多く、中には金額を規則で具体的に定めている団体もある。

*4:もちろん、コピー代や記録媒体の費用等の実費分のみを手数料という形で徴収することも可能である。

公布されていない法令等を引用した条例案の議会への提出の可否

 SNSで、まだ公布されていない政令の規定を、その政令番号を空欄にして引用する規定を含む条例案を議会へ提出することができるかどうかについての意見を拝見した。私は、問題となっている政令等がどのようなもので、それをどのように引用する必要があるのか承知していないので、ここでは、一般的に公布されていない法令等を引用した条例案の議会への提出が可能なのかどうかについて触れてみたい。

 このようなことが可能ではないかといった発想は、国においては、まだ成立していない法律を引用する規定を含む法案を国会に提出する場合には、当該法律の法律番号を空欄にするという運用を行っているからであると思うが、このような運用を行っている理由について、次のような答弁がある。

<第2回国会 衆議院 通信委員会 第15号 昭和23年6月11日>

○佐藤(達)政府委員(法制長官) ……第一点は、國会においてまだ審議中の法案に対する改正法案というようなものが考えられるかどうかということが第一点と拜承いたしました。これは國会で御審議を願つておるものの案につきまして、將來時日の経過によつて何らかの訂正を施したいという場合の方法としてはいろいろな方法がございます。法的に可能な方法としては、ただいま御指摘になりましたように、一應撤回して、書き直してお出しする、あるいはまた國会法によれば、修正のお願いをこちらに申し入れて政府の修正を加える、これから第三の方法として、ただいまこの案のたどつておりますように御審議中のものも成立を前提として、これの一部改正案も両方一緒に御審議願う、これはときの便宜と申しますか、國会のお考えにもよることではございますけれども、法律的にはこの三つの方法いずれをとつても差支えないものと考えております。ただいまのお話で、國会の審議権の無視にならないかという御懸念がございましたけれども、政府としては一應御提案申し上げておる以上は、極力力を盡くしてその成立に努力するという見透しのもとにやつておるわけでございますから、こういうやり方になりますことも御了承願えると思います。またこれが決して國会の御審議の権能を無視しておることでないことは、國会にこれがかかりました以上は、万事國会のお取扱いにお任せしておるわけであります。ただ政府としてはその成立のためにあらゆる努力をして説明申し上げるということでありまして、審議権の無視というようなことには絶対にならないものと考えておる次第でございます。

 その次の問題が実はなかなかむずかしいお尋ねでありまして、少し言葉を多く費しませんと御了解願えないかと思うのでありますが、要するに、この法律第何号というブランクの書き方をして法案を出しておるのはどういうわけかという点であります。実は法律の番号というものは、御承知の通りに官報に政府において制定いたしました法律を公布するわけであります。その公布のときに順番を打つていくわけであります。すなわち昭和二十三年度において最初に成立したものが公布される場合に、それが昭和二十三年法律第一号、その次に公布されますものが第二号、要するに公布の際の官報に載りました順位によりましての番号でございます。ここは昔から今日に至るまで政府においてその番号をつけさせていただく、かつまた將來その番号つきの法律を改正したりする場合においては、その番号を引用して國会においてもお取上げいただいておるわけであります。そういう性格のものでございます。そこで今度の具体的な問題でありますが、今までのわれわれの取扱いとしては、実はこの郵便為替法、あるいは郵便貯金法というようなはつきりした正式の題名のついておりますものは、別に括弧をして、昭和何年法律第何号と言う必要はないので、そういう意味で括弧書きは昔はつけておりませんでした。ところが最近いろいろな関係方面との折衝等におきまして、先方の係官等の意思もあつて、これでは不完全だ、法律の名前があつても、その名前を書いてさらにその下に法律番号もはつきり書くべきだという一つの要請がある。これも考えてみれば法律番号、あるいは何年の法律番号がわかるという点においては親切な方法でありますから、政府としてもこれは一向差支えないことで、かえつてよろしいかも知れないというわけで、これはごく新しいことでそういうことを始めまして、法律の名前の下に番号を一々書く、ところがそういうことをやつておりますと、ちようど御指摘の今日のような場合に至つてはたと当惑する事態が起るわけであります。そこで括弧書きでまだ成立しておりません、すなわち公布になつておりませんから、番号はないという形のものが御審議の客体にならざるを得ないことに立ち至つたわけであります。しかしこういうふうに番号をブランクにいたしまして御審議を願いました例は、実はもとの旧憲法時代にはそういう先例がございました。その関係においてはわれわれ別に不思議はないと思うのでありますが、但し新しい憲法になつた後においても、こういうことは一体どうであろうかという点に実は非常に疑念をもちまして、こちらの國会の事務当局の方方とも念のためにお打合せをしたようなこともございます。これは先ほどから申しますように、便宜政府でお任せ願つたことにして、多年つけておることでもあり、新憲法下においてもこの番号は政府でつけさせていただいておるから差支えないのではないかという結論から、このプランクの番号を御審議願つて、あとで郵便為替法の公布の際に附け加えました番号をこれに書き加えまして公布させていただく。何らこれは実体に触れてのことではございませんから、形式の問題としてそういうことはお許し願えるものという前提に立つておるわけであります。そこで郵便為替法はもちろんこれが成立しておりませんことには、今度御提案申し上げました一部改正の法律というものは意味をなしません。郵便為替法の方は先に公布されることは明瞭でございますから、ただいま御審議の郵便法の一部改正の法律案が公布されますときには、すでにこの郵便為替法の法律番号はきまつておるわけでありますから、そのときにこれを形式的に書き入れて公布するという段どりに考えておる次第であります……。

 したがって、まだ成立していない条例案の規定を引用する場合には、国と同様の取扱いをして構わないことになる。

 では、引用するのが法令の場合はどうかだが、良いか悪いかを別とすれば、当該法令の法律番号等を空欄にした条例案を議会に提出すること自体をできないとする理由はないのだろう。ただし、その空欄を埋める措置については、国においては、原本に法律番号を加筆の上、官報の正誤欄に、法律番号が補完された旨を掲載する扱いがされているが(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P27))、条例において、これと同様の措置をとることは、当該法令が当該自治体以外の者の意思により立案されるものである以上、安易な処理であるように感じる。やはり、その審議中に当該法令が公布されたのであれば、議会において修正してもらうこととし、そうでない場合には、改めて空欄部分を改正する条例案の提出(軽易な事項として専決処分ができるのであれば専決(地方自治法第180条第1項参照))により対応すべきと思う。

 なお、個人的には、年度末に行う税条例の改正のように、法令が公布された時点で専決処分をする対応(同法第179条第1項)が一番いいように思う。

「こども」・「子ども」・「子供」

 法文上の「子供」の表記の仕方について、従来「子ども」が主流だったが、こども家庭庁設置法及びこども基本法においては、「こども」が用いられている。このことについて、国会においては、次のような答弁がなされている。

<第208回国会参議院内閣委員会 第17号 令和4年5月19日>

○政府参考人(谷内繁君)(内閣官房こども家庭庁設置法案等準備室長) 法律におけます子供の定義についてのお尋ねについてお答えいたします。

 法令上の定義や対象年齢は各法令によって様々でございまして、例えば漢字仮名交じりの子どもでございますと、子ども・子育て支援法では、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者と定義されている一方で、子どもの貧困対策の推進に関する法律では、漢字仮名交じりの子どもについて特段の定義がされていないというものでございます。

 また、両方とも漢字の子供でございますと、公職選挙法に例がございまして、幼児、児童、生徒その他の年齢満18年未満の者というふうに定義されているところでございます。

 こども家庭庁設置法案では、第3条第1項におきまして、両方とも平仮名のこどもを心身の発達の過程にある者と定義しております。ここでいう平仮名のこどもでございますけれども、基本的に18歳までの者を念頭に置いておりますけれども、それぞれのこどもの状況に応じて必要な支援が18歳や20歳といった特定の年齢で途切れることなく行われるよう定義を置いているところでございます。

 上記答弁によると、従来と異なり「こども」という表記とした理由は、特定の年齢に着目するのではなく、その状況に着目したことによるということになるのだろう。

 なお、常用漢字を用いると「子供」と表記すべきところ、これまで「子ども」とされている理由は、よく聞くところではあるが、次のような国会答弁がある。

<第164回国会衆議院厚生労働委員会 第7号 平成18年3月10日>

○川崎国務大臣厚生労働大臣 今も御説明いただきましたけれども、百科事典でこんなことが書いてあるんですよ。

 教育や福祉の世界では、要するに、「子供」と漢字の表現を避けて、「子」だけを漢字で書いて、「ども」は平仮名で表記が推奨されることが多い、その理由としては、子供の漢字の「供」の字は、お供え、すなわち子供が大人の附属物であることを連想させるため、また神にささげる供え物の意味につながるため、子供の「供」は当て字なので、漢字に意味なく平仮名にすべきだ、こんな議論もあったようです。こういう議論もある。

 一方で、私は正直言って、ねんきん事業機構というのは自分でつけたものですから、何でこれは平仮名で書かないんだと、「こども」全部、こういう議論をしたんです。いろいろな考え方があるんだろうと思いますね。漢字で「子供」と書いた方がいい、私のように全部平仮名で「こども」と書けという人もいる。

 そして、一般的な流れとして、これまで国会で御審議をいただき成立した法律はすべて、御指摘いただいたように、子供の「子」だけを漢字で書いて、「ども」は平仮名になっている。他の法律を見ますと、「こどもの日」、これは私の意見に合っているんですよ、平仮名で「こどもの祝日法」ということになります。

 そういう意味では、いろいろなこういう議論をしていくことが大事だと思います。今のところは大勢としては、「子」と書いて「ども」は平仮名で書くというのが世の中の大勢にはなっておるようでございます。

 ただし、次の国会答弁に見られるように、元々法律では、「子ども」ではなく、「児童」を用いるのが通例だったようである。

<第126回国会衆議院外務委員会 第7号 平成5年5月11日>

○小西説明員(外務大臣官房審議官) ……私ども、これは繰り返しになりますが、先ほどから申し上げておりますことは、国内的に英語のチャイルドに当たる言葉として一番広く用いられて適切な言葉は何かという観点から国内法令の用語を検討したわけでございます。

 その際に、一つの可能性としては、先生の御指摘の子供というものも、こどもの日という法律で定められている例がございますので、一つの例としては当然その存在はもちろんわかっておったわけでございます。ただ、法律として用いられている例は、私どもが承知している限りこどもの日というのが唯一の日本の法律の例でございまして、その他の法律においては、先生の御指摘のとおり、学校教育法を初めいろいろな法律で児童という言葉が広く一般に用いられておるわけでございます。

 その児童という言葉につきましても、各法律によりまして、その法律の目的、役割、任務と申しますか、その内容に応じて、対象となる児童は当然その範囲が異なっていてしかるべきでございまして、例えば児童福祉法でございますと、第4条で「この法律で、児童とは、満18歳に満たない者をいい、」あるいは児童手当法では第3条で「この法律において「児童」とは、18歳に満たない者をいう。」それから先生の御指摘になられました学校教育法、労働基準法もございますが、例えば母子及び寡婦福祉法第5条には、「この法律において「児童」とは、20歳に満たない者をいう。」というような例もございます。

 したがいまして、今申し上げました御説明を取りまとめますと、児童ということで表現される低年齢層の者の範囲というのは法律によって区々いろいろ異なっておりますが、低年齢層の者を広く表示する、そういう用語として日本の法令は広く児童という言葉を用いているということは事実でございます。

 また他方、子供という言葉でございますけれども、私どもは条約の「チャイルド」という正文を訳すときに、それが果たして親子関係を指すものなのか、それとも低年齢層の一定の人間を指すものなのか、こういった観点から厳密に検討するわけでございますけれども、子供という言葉には、親との関係において子供である、親子関係を指す場合もあるわけでございます。そういった関係からいたしまして、私どもは、国内法律で広く用いられている児童という言葉、それから子供という例は、法律において唯一こどもの日というところには出てくるけれども、そのほかにはそういう例は見られない、したがいまして、「子供」というよりも「児童」という言葉でこの「チャイルド」を表現した方が的確ではないかという結論を得たわけでございます。

 このように、一般的に用いられていた「児童」という用語を、「子ども」という用語に改めた事例として、「児童手当」を「子ども手当」に改めた例があるが、その際に、次のような議論がなされている。

<第164回国会参議院厚生労働委員会 第7号 平成18年3月29日>

渡辺孝男 ……まず最初に、民主党・新緑風会提出の児童手当法の一部を改正する法律案に関連しまして質問をさせていただきます。

 第1問は、児童手当は既に国民の間に普及している名称でありまして、長年の改正による充実の実績があります。この児童手当をあえて子ども手当に変更し、名称変更に伴う周知など、事務手続を増やすことの意味についてお伺いをしたいと思います。

○委員以外の議員(和田ひろ子君) ……この法案は、子供第一という方針の下、子供に着目をして子供が安心して育つことができるように、また親が安心して子供を育てられるよう、子育てに係る経済的負担を社会全体で負担すべきとの考えに立ち、児童の養育に係る経済的負担の軽減を図ることを目的としております。

 現行の児童手当は、家庭における生活の安定を目的の一つとして、子供ではなく親に着目した制度となっており、子ども手当とは全く考えを異にするものであります。また、政府案が、当分の間の暫定措置としての特例給付を拡大するだけで児童手当制度の抜本的な改革を先送りしているのに対し、民主党案では、制度を一本化し抜本的な改革を行っております。したがいまして、現行の児童手当制度に代えて新たに子ども手当制度を創設するに当たり、手当の名称を子ども手当といたしました。

 子ども手当の創設については、国や自治体からその趣旨を的確に通知することにより国民に御理解をいただけるものと考えております。名称の変更による事務手続の増加があるとしても、それは一時的なものであり、膨大な負担になるとは考えておりません。

 これによると、「子供」とか「児童」とかの用語の持つ意味というよりも、従来の制度を大きく変えるから、その名称も変えるという、いわば政治的な理由により改めたということなのだろう。

 表記を「こども」にしたことも、結局、国語的な理由よりも、政治的な意図が働いたということなのだろうか。

ヤングケアラーの法律上の表現

 令和6年6月12日法律第47号の第20条の規定により、子ども・若者育成支援推進法に次のとおりヤングケアラーが明記された*1

改正後 改正前
(基本理念)
第2条 子ども・若者育成支援は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
(1)~(6) (略)
(7) 修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者、家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者その他の社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者に対しては、その困難の内容及び程度に応じ、当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ、必要な支援を行うこと。
(基本理念)
第2条 子ども・若者育成支援は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
(1)~(6) (略)
(7) 修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって、社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対しては、その困難の内容及び程度に応じ、当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ、必要な支援を行うこと。

 このことについて、お世話になっている松下先生のブログで取り上げられており、その記事にコメントを投稿させていただいたので、備忘録の意味を兼ねて転記しておく。

 実務をあまり承知していないのでずれた意見になっているかもしれませんが、法制執務の観点から感じたことを投稿させていただきます。

 改正前の条文の書き方をあまり変えないのであれば、第2条第7号は「修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者、家族の介護その他の日常生活上の世話を行っている子ども・若者その他の子ども・若者であって……」と書けばいいので、「過度に」をあえて書く必要はなくなります。しかし、「修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者」が「社会生活を円滑に営む上での困難を有するもの」と言えるのであれば、「その他の子ども・若者」は冗長な感じがするので、構文を改めたくなる気持ちは理解できますし、実際にそのような判断をしたのだと推測します。

改正文は、ヤングケアラーを「社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者」の例示として書く形にしていますが、それ程きっちりと定義をしなければいけない箇所ではないので、「過度に」という表現を用いたことは、そういう表現もありだろうと思います。

 なお、字面だけを見ると、改正前の条文でも、「社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者」であれば、支援対象になっていたので、ヤングケアラーも含まれてはいたのであり、改正文は、それを明記したという位置付けになると思います。そうすると、法律案要綱では、「子ども・若者育成支援の基本理念において、必要な支援を行う対象者に、家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者を追加するものとすること」とされていますが、「……必要な支援を行う対象者として、家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者を明記するものとすること」といった表現が正確なのではないかと感じました。

 

(前半部分が分かりにくいとのことで、再投稿)

子ども・若者育成支援推進法は、それ自体具体的な施策を定めている法律ではないので、支援対象をそれ程厳密に定義する必要はないと考えられるため、できるだけ簡潔とすることを選択したのだと思います。そういう意味では、まさしく法制執務的な対応だったのかもしれません。

 ただ、表現の仕方は、いろいろ書き方があると考えられる中で、なぜこのような表現になったのかは興味を惹かれるところです。そうした意味では、こども家庭庁による最初の原案がどういったものだったのか気になります。

 ちなみに、元々「修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者」は、社会生活を円滑に営む上での困難を有するものと考えていたのであれば、改正前の第2条第7号の規定の「社会生活を円滑に……」の前の読点は、そもそも打つべきではなかったのだろう。

*1:第15条第1項も同様の改正がなされている。

「経過した日」の用い方~令和6年法律第8号による改正から

 

所得税法等の一部を改正する法律(令和6年法律第8号)

 (相続税法の一部改正)

第3条 相続税法(昭和25年法律第73号)の一部を次のように改正する。

   (略)

 第12条第2項中「その」を「当該」に、「において、なお」を「までに」に、「を当該」を「をその」に、「供していない場合においては」を「供しない場合又は供しなくなつた場合には、同項の規定にかかわらず」に、「課税価格」を「相続税の課税価格」に改める。

 この改正における相続税法(以下「法」という。)第12条第2項に係る新旧対照表は、次のとおりである。

改正後 改正前
前項第3号に掲げる財産を取得した者が当該財産を取得した日から2年を経過した日までに当該財産をその公益を目的とする事業の用に供しない場合又は供しなくなつた場合には、同項の規定にかかわらず、当該財産の価額は、相続税の課税価格に算入する。 前項第3号に掲げる財産を取得した者がその財産を取得した日から2年を経過した日において、なお当該財産を当該公益を目的とする事業の用に供していない場合においては、当該財産の価額は、課税価格に算入する。

 法第12条第2項が引用している法第12条第1項は、「次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない」とし、同項第3号の規定は、次のとおりである。

宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続又は遺贈により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの*1

 これらの規定によると、公益事業の用に供することが確実な財産は、相続税の非課税財産としているが、改正前は、それを取得した日から2年を経過した日において、なお当該事業の用に供していない場合には、当該財産は課税することとしていた。そして、この改正により、一旦公益事業の用に供したとしても、2年を経過するまでに供しなくなった場合にも課税することとしたのだろう。そのため、「経過した日において、なお」を「経過した日までに」としている。

 例えば、財産を取得した日が、令和6年4月1日だった場合、2年経過するのは、初日を算入せずに計算すると、令和8年4月1日の24時となるため、改正前の「……経過した日において、なお……供していない場合」という表現であれば、同月2日に公益事業の用に供していない場合には、課税されることになるのは明らかである。これを「経過した日までに……供しない場合*2」とすると、白石忠志『法律文書読本』(P160)によると、「〇〇日を経過する日」は、〇〇日目の日そのものであり、「〇〇日を経過した日」は、〇〇日目の日の翌日であるため、この改正によって、同月2日中に公益事業の用に供した場合には、非課税財産としてよいと考えるべきか一応疑問が生じる。しかし、実際には、この取扱いを変える意図はないだろうし、基準時点で考えれば、令和8年4月1日の24時であるため、例えば同月2日の午前8時に公益事業の用に供したとしても、課税すると解すべきではないかと思う。

 こうした疑問は、「経過した日までに」という表現にあるように思う。一定の期間の前後を捉えるための表現として「経過する日」と「経過した日」を使い分ける場合には、私は、ある期間の満了時点を過ぎるか過ぎないかに着目し、満了時点以降を指したい場合は「経過した日」、それ以前を指したい場合は「経過する日」とするのが語感からしても適切だろうと考えている(拙著『基礎から分かる!自治体の例規審査』P224参照)。したがって、「経過した日において、なお」の部分の改正は「経過した日までに」と改めるのではなく、「経過するまでに」とすべきだっただろう*3

 

 余談だが、この改正では、「当該公益」の「当該」を「その」に改正している。

 「公益」自体には特別の意味がないので、あえて「当該」を記載する必要はないと思うが、法第12条第1項第3号が、「……その他の公益」ではなく、「……その他公益」となっており、同号において、それを受けて「当該公益」としているため、「当該公益」としていたのではないかと思う。ただ「当該」であれば、「まさにその」といった意味があるので、あまり違和感はないが、これを「その」にしてしまうと、よく分からない文章になってしまう。

 この「当該」は「その」にしない方がよかったと思うのだが、「当該」が頻出するのが嫌ならば、「……までにその財産を当該公益……」というように、直前の「当該財産」の「当該」を「その」にした方がよかったのではないかと思う。

*1:なお、令和6年法律第8号第3条は、「確実なもの」の次に「(次号に掲げるものを除く。)」を加える改正を行っている。

*2:「……までに……供しない場合」という表現にも違和感がある。「……供しなかった場合」とするのが適当ではないかと思う。

*3:改正後の法第12条第2項のような用い方をしている法律の規定例は、他にもあることはあるが、少数である。

略称を置く位置

 法文に置かれる略称は、略称の対象となる言葉が初出する場所に置かれるのが通常であるが、初出する場所には置かない方がいいと思われる場合もある。

 次の規定は、「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律(平成28年法律第12号)」第3条第2項の規定である。

国は、戦没者の遺骨収集の推進に関する施策を講ずるに当たっては、平成28年度から平成36年度までの間(第5条第1項において「集中実施期間」という。)を、戦没者の遺骨収集の推進に関する施策を集中的に実施する期間とし、戦没者の遺骨収集を計画的かつ効果的に推進するよう必要な措置を講ずるものとする。

 上記の規定は、「平成28年度から平成36年度までの間」という文言について「集中実施期間」という略称を置いているが、これは、当該規定でこの期間を「……を集中的に実施する期間とし」ているためこうした略称にしているのだろう。しかし、そうであるならば当該規定で略称を置くのではなく、次に出てくる規定のところで「第3条第2項に規定する期間(以下「集中実施期間」という。)」という形で置いた方がスッと読むことができる*1

 ただし、この法律では、「集中実施期間」という用語は、第5条第1項の1か所でしか使っていないので、あえて略称を置く必要はない。どうしてもこの用語を法律に書きたいのであれば、第3条第3項として、「前項に規定する期間は、「集中実施期間」という。」というような規定を置くより仕方ないかと思う。

*1:附則で置かれる「施行日」という略称は、施行期日の規定で置くよりも、その後引用する必要がある規定のところで置く方が一般的なのも、そうした意図なのではないかと思う。