自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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目的規定(1)

 今回から12回にわたり目的規定について取り上げる。法制執務的に書き方が難しいものとして、経過規定がよく挙げられるが、目的規定も難しいものの一つだと思う。旧ブログでも、目的規定の記事を幾つか掲載してきたので、それをまとめておくこととしたい。

 <「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2006年11月18日付け記事「目的規定」
  • 2006年11月23日付け記事「高次の目的を掲げる場合の目的規定」
  • 2006年12月3日付け記事「目的等規定(趣旨等規定)」
  • 2006年12月16日付け記事「目的規定の意義」
  • 2008年8月1日付け記事「どのような場合に目的規定を置き、趣旨規定を置くべきか」
  • 2008年8月8日付け記事「どのような場合に目的規定を置き、趣旨規定を置くべきか~税条例の場合」
  • 2009年2月6日付け記事「論理的な文章~目的規定から」
  • 2010年3月19日付け記事「目的規定~公文書管理条例」
  • 2012年1月21日付け記事「地域主権改革一括法を受けた条例の規定内容~目的規定を中心にして(上)
  • 2012年1月27日付け記事「地域主権改革一括法を受けた条例の規定内容~目的規定を中心にして(中)
  • 2012年2月4日付け記事「地域主権改革一括法を受けた条例の規定内容~目的規定を中心にして(下)
  • 2012年11月3日付け記事「目的規定~日弁連行訴法第2次改正案に関する議論から」

1 目的規定の意義

 目的規定について、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P81)には、次のように記載されている。

 法律においては、内容の極めて簡単な法律、既存の法律の一部を改正する法律、ある法律の施行法等を除いては、第1条に目的規定を設けるのが通例である。なお、法律によっては、目的規定に代えて、趣旨規定を設けるものもある。

 しかし、塩野宏先生は、目的規定を制定法に置くことは普遍的なことではないとされ、それが多くなったのは、日本国憲法制定後の法律からであるが、戦時中の立法のなかにもあり、戦前の立法例における目的規定の設置は、現在よりも少ないし、恣意的であるとされている(「制定法における目的規定に関する一考察」『法治主義の諸相』)。そして、目的規定の設置が標準化している根拠として、次のように推測されている。

 戦前においても、目的規定が置かれているのは、多くは、わが国の国家目的が先鋭化していた時代に、その時代的背景を反映する立法である。そして、敗戦後にわが国は、新たな憲法理念のもとに、法制の整備にあたることとなったが、そのことを明らかにするには、個別法律の第1条にその目的乃至理念を高々と掲げることが、法律制定者(これには、わが国の立法関係者のみならず、占領軍のそれもあったと思われる)の意気込みを示すと同時に、新時代の法の整備についての国民の啓発にも視すると考えられたのではないか。……

 このように、憲法との関係を盛り込んだ目的規定は、明治憲法のもとでの制定法には存在しなかったものであって、戦前の目的規定設置との関係は必ずしも明らかではない。その意味では、現行制定法の目的規定の標準化の端緒は、むしろ、戦後改革立法のなかに求めるのが適当であると思われる。そして、ここから、必ずしも当該分野の基本的法典でもなく、憲法との関係が密でもない一般の法律の制定の際の要領として、一般化されていったものと解される。(同書P51~)

 では、目的規定がどのような機能を有するかについてだが、塩野先生は、同書(P55~)において、次のように記載し、啓発機能、説明機能及び解釈機能の3点を挙げている。

 目的規定が置かれる趣旨は、法制執務の上からは、「通常の目的規定は、その法令の立法目的を簡潔に表現したものであり、その法令の達成しようとする目的の理解を容易ならしめるとともに*1、その法令の他の条文の解釈にも役立たせる*2」(前田・前出注(1)*3。同趣旨、浅野・前出注(6)*4254頁)とされている。目的規定が標準化された段階における説明であるが、標準化の端緒を想起するならば、単に理解を容易ならしめるだけでなく、戦後改革立法が、これに啓蒙機能を託していたことが想起さるべきであるし、さらに、現段階では、これを啓発機能と言い換えることができよう。

 これだけだと、目的規定の機能をあえて挙げればこんなものがありますよと言っている程度で、目的規定というものの重要性はあまり感じない。事実、塩野先生は、同書(P65)で次のように記載している。

 立法に際しても、目的規定の文言にあまりに拘泥したり、多くのことを書き込もうとすることは、目的規定の機能との関係で必ずしも適当ではないと解される。目的規定がなくとも、法律は制定法として立派に存在しうるものである。

 ただ、上田章『議員立法五十五年』(P132)には、無限連鎖講の防止に関する法律に関してであるが、次のような記載がある。

 法体系としても古くから暴力行為等処罰ニ関スル法律とか、人質による強要行為等の処罰に関する法律、航空機の強取等に関する法律などのように、刑法の特別法といわれるような法律はすべて第1条に目的などというのは書いてありません。これは当然悪とされる行為であるからということで、目的などなしにすぐに処罰規定を書くというのが、刑法犯に類する法体系であります。

 この無限連鎖講(無限連鎖講の防止に関する法律)はその法体系に属するけれども、ねずみ講をはびこらさないようにという啓蒙宣伝とかその他、行政法規をいろいろ規定することによって、単なる刑事法ではない。したがって、この法律の所管はかつての経済企画庁法務省の両方にまたがるという意味合いにおいて、目的から始まって定義を書くという通常の行政法規に近いような規定の書き方をしておりますが、……

 つまり、自治体における条例においては、社会通念としては、反社会的、反道徳的とはいえない行為を規制する行政法規であるのが一般的であろうから、なぜ、その行為を規範するのかということは明らかでないので、その目的を規範の内容として明記する必要はあるということになる。

 そして、現在は、行政事件訴訟法第9条第2項において裁判所が取消訴訟原告適格に係る法律上の利益を判断するに当たり法令の目的を考慮することとしていることにも留意する必要があるだろう。

*1:塩野先生の言われる説明機能に当たると考えられる。

*2:塩野先生の言われる解釈機能に当たると考えられる。

*3:前田正道『ワークブック法制執務(全訂版)』のことである。

*4:浅野一郎『法制執務事典』のことである。