自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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目的規定(3)

  イ 景観法の規定

 次に掲げる規定は、景観法の目的規定である。

この法律は、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

 この規定は、「景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずること」が目的達成の手段で、その前に「我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため」と目的が書かれており、さらに目的達成の手段の後にも目的が書かれている。

 国会の審議において、景観法の目的について次のような答弁がなされている。

この法律案は、……都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進し、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図るための我が国で初めての景観についての総合的な法律として定めようとするものです(第159回国会衆議院国土交通委員会(平成16年4月27日)石原国務大臣)。

 つまり、「もって」以下が高次の目的であることは明らかであるから、「我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進する」ことと「美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現」とを直接的な目的としていることになる。そうすると、直接的な目的を目的達成の手段の後にまとめて書くことを考えると、次のようになる。

この法律は、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するとともに、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

 しかし、これだと直接的な目的の部分が冗長になるのと、いきなり「景観計画」と出てくるのがどうかとも感じるので、上記のような書き方になったということなのだろうか。

   ウ 特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法の規定

 法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P83~)は、直接の目的とその達成手段に加えて究極的な目的を記載した事例として、次の「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」の目的規定を挙げている。

この法律は、産業構造及び国際的な競争条件の変化、急速な少子高齢化の進展その他の経済社会情勢の変化に対応して、産業競争力を強化するとともに、国民が豊かで安心して暮らすことができる社会を実現するためには我が国の科学技術の水準の著しい向上を図ることが重要であることに鑑み、特定国立研究開発法人による研究開発等を促進するため、政府による基本方針の策定、中長期目標等に関する特例その他の特別の措置等について定めることにより、世界最高水準の研究開発の成果の創出並びにその普及及び活用の促進を図り、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。

 上記のように、条例を制定する動機を記載する場合には、直接的な目的はその達成手段の前に書いた方が適当な場合が多いように感じる。