自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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PR会社に支払われたポスター制作経費の公選法上の取扱い

 今般の兵庫県知事選挙においてPR会社に支払われたポスター制作経費について、種々取り上げられている。私自身、選挙事務の経験はあるものの、この話題を聞くたびに、実務はどうだったのかと疑問を持つことがあったため、改めて選挙ポスターの制作に係る費用について公職選挙法上の取扱いを確認したので、記載しておくこととする。

 

1 選挙公営制度との関係

 お金のかからない選挙のため、また候補者間の選挙運動の機会均等を図るため、選挙運動費用の一部を公費で負担することとしているが、これが選挙公営といわれており、知事選挙におけるポスター制作についても、公費負担の対象となる(公職選挙法(以下「法」という。)第143条第15項)。*1

 公費負担とするための手続は、自治体の条例等で定めることになるが、国政選挙に準じて定めることとされており(法第143条第15項)、おそらくどの自治体も国政選挙と同様の制度としていると思われる。では、それがどのようになっているかについてだが、具体的な手続は、次のとおりである。

  1. 候補者は、業者と契約を締結し、契約に関する書面の写しを添えて選管に届出(公職選挙法施行令(以下「令」という。)第110条の4第1項、公職選挙法施行規則(以下「規則という。」第17条の4第1項)
  2. 作成枚数が法定の範囲内であることについて、候補者による選挙管理委員会(以下「選管」という。)あて確認申請書の提出、選管による候補者あて確認書の交付(令第110条の4第2項、規則第17条の5)
  3. 候補者は、確認書を業者に提出(規則第17条の6)
  4. 候補者は、業者に作成証明書を提出(規則第17条の7第1項)
  5. 契約業者は、首長*2に確認書・作成証明書を添えて請求書を提出(令第110条の4第2項、規則第17条の8)

 このように、1枚当たりの単価、作成枚数等に上限があること(令第110条の4第2項・第3項)もあってか複雑な手続になっているが、公費負担の対象とするためには、契約に関する書面の写しの提出が必要なため、当然契約書を作成することになり、その対価は、自治体から業者に直接支払われることになっている。したがって、知事側がPR会社に契約書を作成せずに支払ったとされる対価については、公費負担の対象とはならないことになる。

 なお、報道等によると実際にポスターを印刷した業者は別にあるようなので、その業者に対する支払いについては公費負担の対象となることは考えられる。

 

2 公選法上の処理

 PR会社に支払われた経費は、上記のとおり公費負担の対象とはならないものの、選挙運動費用であることは間違いないため、候補者が選任した出納責任者は、収支報告書には計上することになり、それを選挙の期日から15日以内に選管に提出することになる(法第189条)。

 なお、選挙運動費用の総額については、上限がある(法第194条、令第127条)。

*1:実際に公費負担とするためには条例を制定する必要があるが、兵庫県では「兵庫県議会議員及び兵庫県知事の選挙における選挙運動用自動車の使用並びに選挙運動用ビラ及び選挙運動用ポスターの作成の公営に関する条例」を制定し、公費負担することとしている。

*2:規則は国政選挙を想定しているため、実際には総務大臣に提出する規定となっている。