(3) 定義すべき用語が適切でなかったと思われる事例
令和元年5月31日、「食品ロスの削減の推進に関する法律(令和元年法律第19号)」(以下「法」という。)(議員提案(衆法))が公布された。題名にも使われているが、「食品ロス」という言葉は、当然定義が必要なのだろうと思い確認したところ、次のとおり、定義されているのは「食品」という用語と「食品ロスの削減」という用語のみである。
(定義)
第2条 この法律において「食品」とは、飲食料品のうち医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条第1項に規定する医薬品、同条第2項に規定する医薬部外品及び同条第九項に規定する再生医療等製品以外のものをいう。
2 この法律において「食品ロスの削減」とは、まだ食べることができる食品が廃棄されないようにするための社会的な取組をいう。
法の本則を見ると、確かに「食品ロス」という用語は「食品ロスの削減」という形で用いられている。しかし、前文では、第1文で「我が国においては、まだ食べることができる食品が、生産、製造、販売、消費等の各段階において日常的に廃棄され、大量の食品ロスが発生している。食品ロスの問題については……」、第2文で「食品ロスを削減していくためには……」のように「食品ロス」という言葉で使われている。
また、「食品ロスの削減」という用語については、「……取組をいう」というように定義されている。「削減」という言葉に「取組」という意味まで含めることがどうかという疑問もあるのだが、そうしたことにより適切でない箇所も散見される。例えば、法には次の規定がある。
(消費者の役割)
第6条 消費者は、食品ロスの削減の重要性についての理解と関心を深めるとともに、食品の購入又は調理の方法を改善すること等により食品ロスの削減について自主的に取り組むよう努めるものとする。
(教育及び学習の振興、普及啓発等)
第14条 国及び地方公共団体は、消費者、事業者等が、食品ロスの削減について、理解と関心を深めるとともに、それぞれの立場から取り組むことを促進するよう、教育及び学習の振興、啓発及び知識の普及その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 (略)
(食品関連事業者等の取組に対する支援)
第15条 国及び地方公共団体は、食品の生産、製造、販売等の各段階における食品ロスの削減についての食品関連事業者(食品の製造、加工、卸売若しくは小売又は食事の提供を行う事業者をいう。第19条第1項において同じ。)及び農林漁業者並びにこれらの者がそれぞれ組織する団体(次項において「食品関連事業者等」という。)の取組に対する支援に関し必要な施策を講ずるものとする。
2 (略)
これらの規定は、「食品ロスの削減」に「取組」という意味を含めているので、「取組について……取り組む」という文章になってしまっている。
また、法には次の規定がある。
(表彰)
第16条 国及び地方公共団体は、食品ロスの削減に関し顕著な功績があると認められる者に対し、表彰を行うよう努めるものとする。
(実態調査等)
第17条 国及び地方公共団体は、食品ロスの削減に関する施策の効果的な実施に資するよう、まだ食べることができる食品の廃棄の実態に関する調査並びにその効果的な削減方法等に関する調査及び研究を推進するものとする。
(委員)
第23条 委員*1は、次に掲げる者をもって充てる。
(1)~(3) (略)
(4) 食品ロスの削減に関し優れた識見を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する者
2 (略)
これらの規定も、「食品ロスの削減」という用語に「取組」という意味を含めない方が適切だろう。
思うに、「食品ロスの削減」という用語で定義するのでなく、「食品ロス」という用語で「まだ食べることができる食品が廃棄されること」といった定義を置けば、あえて「食品ロスの削減」について定義を置く必要はなく、その取組について言いたい場合には、「食品ロスの削減に向けた取組」といった形で使うのがよかったのではないだろうか。