自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

目的規定(9)

 (2) 具体例~税条例

 前回、どのような場合に目的規定を置き、どのような場合に趣旨規定を置くべきかの基準を記載したが、絶対的な基準と考えるべきではない。

 塩野宏「制定法における目的規定に関する一考察」『法治主義の諸相』(P46)では、行政法規でも趣旨規定が置かれている例として、消費税法印紙税法などの租税実体法を挙げ、これは目的を書きにくいこととも関連しているのかもしれないとしている。

 しかし、納税については憲法上で義務とされているのだから、あえて目的も置くまでもないと考えることもできる。そして、自治体における税条例については、地方税法等の委任に基づき定めていると考えることもできるので、前回記載した基準の1(2)のグループに属しているものと考えることができる。

 近時は、税条例の特例を別条例として定める場合も多いと思うが、この場合にも趣旨規定とすることがある。つまり、題名を「○○に関する△△税条例の特例に関する条例」として、第1条は「~に関し△△税条例……の特例を定めるものとする」とするのである。これは、税条例との関係、すなわち一般法・特別法の関係を明らかにするための趣旨規定ということになる(大島稔彦『法令起案マニュアル』(P192)参照)。このような例として、税の分野ではないが、次のとおり「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」が挙げられる。

   電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律

 (趣旨)

第1条 この法律は、消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法明治29年法律第89号)の特例を定めるものとする。

 ただ、このような自治体独自に設ける税については、一定の目的があって導入することが通常であり、そのような目的は条例に記載したいところである。その目的は、趣旨規定の中で「~のため、~に関し△△税条例……の特例を定めるものとする」という形で書くことも可能である。

 しかし、これを「~に関し△△税条例……の特例を定めることにより、~を目的とする」として、趣旨規定でなく目的規定とすることも考えられる。このような例として、これも税の分野ではないが、次のとおり「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が挙げられる。

   中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律

 (目的)

第1条 この法律は、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供すること等により我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法明治29年法律第89号)の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする。

 このようにする場合には、題名は「○○に関する△△税条例の特例に関する条例」とはせずに、何か適当な題名を付すことになるのであろう。 

 趣旨規定とするか目的規定とするかは、他の条例との関係を強調するか、その特例を設ける目的を強く出したいかという判断によることになるのだろう。