自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

検察庁法改正案を束ね法案とすることについて

 今回は、今記載しているシリーズを中断して、話題になっている検察庁法改正について、諸々批判がある中で、国家公務員法の改正と合わせて行うこととするいわゆる「束ね法案」としたことを取り上げる。

 本件法案は、結局廃案となる見込みのようであるが、本則で次の10の法律について一括して改正しようとしたものである。

  束ね法、すなわち複数の法令を一の改正法令で行うことができるのは、その動機が共通の場合であるとされている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P380)参照)。

 本件法案の改正内容だけに着目すると、束ね法にできないこともないと思うが、私は、次の理由により、国家公務員法の改正とは別法案とすべきだったと考えている。

1 国家公務員法に基づく定年との違い

 国家公務員の定年については、昭和56年法律第77号による国家公務員法改正により設けられたのに対し、検察官の定年については、戦前からの制度を引き継いでおり、昭和22年に現在の検察庁法が制定されたときから定められており、改正等がなされた経過はない。

 検察官の定年については、山中理司弁護士のブログで詳しく取り上げられているが、これによると、検事は全て判事に準じて定年制を設けることとされたが、定年を何歳とするかは、検察官の職務は裁判官に較べて激職であり体力的に見て裁判官程高い定年を設けることは適当ではないということとのことである。

 このように、検察官の定年は、一般の国家公務員とは制度が設けられた経緯が異なり、むしろ裁判官のそれに近い面があるのである。

2 他の法案における取扱いの違い

 給与の改定を行う場合、「一般職の職員の給与に関する法律」の改正と「検察官の俸給等に関する法律」の改正とは束ね法とはしていない。つまり、検察官に係る制度については、一般の国家公務員とは別に扱うのが慣例になっている。

3 本法案は特別職に係るものも合わせて行っているという不適切さ

 本件法案を肯定的に捉える見解は、検察官も一般職の公務員であるから問題ないというものがある。

 しかし、本件法案は、特別職である自衛官と検査官に係る改正もまとめて行っているのである。本件法案の提案理由が「人事院の国会及び内閣に対する平成30年8月10日付けの意見の申出に鑑み」とされていることからすると、さすがに特別職も含めて一の法案で処理するのは無理があるように感じる。

 特に自衛官の定年については、一般の国家公務員と同時期に制度化されているが、その際の自衛隊法の改正は昭和56年法律第78号であり、国家公務員法の改正とは別の法律により改正されている。 

 以上のとおり、本件法案は、従来の取扱いからすると①国家公務員法及びその関連法、②検察庁法及びその関連法、③自衛隊法及びその関連法、④会計検査院法の4つの法案とするのが通常の案件だったと思われる。

 これまでの取扱いを承知していないということはないだろうから、元々何かあるのではないかと勘繰られても仕方がない事案だったのである。それとも、これほど問題になるとは思っていなかったのだろうか。