自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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新型コロナ特措法

 今回は、今記載しているシリーズを中断して、いわゆる新型コロナ特措法について、法制執務の観点から取り上げることとする。

 新型コロナ特措法という名称で報道されている「新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)」は、3月13日に成立したところである。

 改正の内容は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「法」という。)の附則(本法附則)に附則第1条の2として次の規定を追加するものである。

新型コロナウイルス感染症に関する特例)

第1条の2 新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和2年1月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。第3項において同じ。)については、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(令和2年法律第 号。同項において「改正法」という。)の施行の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は、第2条第1号に規定する新型インフルエンザ等とみなして、この法律及びこの法律に基づく命令(告示を含む。)の規定を適用する。

2 前項の場合におけるこの法律の規定の適用については、第14条中「とき」とあるのは、「とき(新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和2年1月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。)にあっては、そのまん延のおそれが高いと認めるとき)」とする。

3 前項に定めるもののほか、第1項の場合において、改正法の施行前に作成された政府行動計画、都道府県行動計画、市町村行動計画及び業務計画(以下この項において「行動計画等」という。)に定められていた新型インフルエンザ等に関する事項は、新型コロナウイルス感染症を含む新型インフルエンザ等に関する事項として行動計画等に定められているものとみなす。

 まず、法の適用対象がどのようになっているかであるが、法第2条第1号は、新型インフルエンザ等について「感染症*1第6条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)をいう。」と定義している。

 これに対し新型コロナウイルス感染症については、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令(令和2年政令第11号)」第1条で感染症法第6条第8項の指定感染症とされている。したがって、あえて改正を行わなくても法の適用は可能といった主張も見られたが、当該政令を制定した以上、現状としては何らかの法律を制定しない限り、法の適用はできない状態であったと言える。

 そうすると、新型コロナウイルス感染症を法の適用対象とするにはどうするかであるが、本来適用対象でないものを適用対象とする場合には、「〇〇を△△とみなして、……を適用する」といった構文とするのが通例であるため、改正法附則第1条の2第1項の規定は、法制執務的にはいたってオーソドックスな規定といえるだろう。

 ただし、法における新型インフルエンザ等の定義が、新型インフルエンザ等感染症と新感染症であり、それに新型コロナウイルス感染症を加えるのであれば、法第2条第1号を次のように読み替える規定を置くことが普通の発想だろう。 

読替え前 読替え後
(1) 新型インフルエンザ等 感染症法第6 条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)をいう。 (1) 新型インフルエンザ等 感染症法第6 条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)並びに新型コロナウイルス感染症(……)をいう。

 そのためには、附則第1条の2第1項は、次のような規定にする必要がある。

新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(……)の施行の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間、第2条第1号中「をいう」とあるのは、「並びに新型コロナウイルス感染症(……)とする。

 しかし、このような規定では、新たに法の対象とするのが新型コロナウイルス感染症かどうか一見しただけではよく分からないので、採り難い方法ではあると思う。

 ところで、新型コロナウイルス感染症新型インフルエンザ等とみなした結果、附則第1条の2第3項の「……新型コロナウイルス感染症を含む新型インフルエンザ等に関する事項……」という表現はあまり適切ではなく、次のような規定でよかったのではないだろうか。

前項に定めるもののほか、第1項の場合において、改正法の施行前に作成された政府行動計画、都道府県行動計画、市町村行動計画及び業務計画には、新型コロナウイルス感染症についても定められているものとみなす。