自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

第2次分権改革の評価(3)

3 条例に委任された事項について

 (1) 些末な事項

 第2次分権改革における条例への委任は、重要な事項についてはなされず、些末な事項であったという評価をよく耳にするが、当時も原課の職員からそうした声を聞くことはあった。例えば、医療法では病院の従業員の配置基準について委任されているが、医師の配置基準については委任されていないということを言っていた職員がいた。

 ただ、私が特に些末な事項と感じたのは、標識の寸法である。

 「鳥獣の保護及び保護及び狩猟の適正化に関する法律」は、都道府県知事が設置する指定猟法区域等を表示する標識の寸法を定めることを条例に委任した。法律の規定は、次のようなものである。

……標識に関し必要な事項は、環境省令で定める。ただし、都道府県知事が設置する標識の寸法は、この項本文の環境省令の定めるところを参酌して、都道府県の条例で定める。

 上記の環境省令では、標識の様式を規定し、その様式に寸法も規定されている。つまり、標識の様式は環境省令で画一的に定められており、寸法のみが参酌基準になっているということである。聞くところによると、自治体は、省令の基準そのものの撤廃を要求していたが、狩猟者の行動範囲は一の都道府県にとどまることはないため、標識の様式は全国同一のものにすべきとの考えから、寸法のみ条例に委任したということのようである。

 同様に標識の寸法を委任した例として道路法があるが、標識を定める場合には、一般的には規則事項にするか、それ以下の例規で定める事項であろう。さらに、ここで委任しているのは、寸法のみであり、それを条例で定めろというのが法律の規定なのである。

 ここには、何でもかんでも条例という考え方が見られるが、これは地方分権改革推進委員会の考え方に引きずられているのではないかと感じる。つまり、同委員会において「義務付け・枠付けの存置を許容する場合のメルクマール」が示され、その該当・非該当の判断に当たって、各府省から条例ではなく、長その他の執行機関が定める規則による決定の余地を許容しているものについては存置してもよいのではないかといった意見が出されたようであるが、地方分権改革推進委員会は、次のような見解を示し、その存置を否定している。

 義務付け・枠付けの中には、条例ではないが、長その他の執行機関が定める規則による自主的な決定を許容しているもの、又は法令による義務付けについて長その他の執行機関が定める規則等による補正を許容しているものがある。これについては、本来、地方自治を重視する立場からは、地方議会の議決を経て、条例で行うべきである。したがって、その存置を許容するためのメルクマールを設定する特段の必要性は認められない。

 行政委員会の規則については別に議論する必要はあるだろうが、二元代表制をとる地方自治体において、地方自治を重視する立場から一律に条例で行うべきという理屈が私にはよく分からない。少なくとも、従来政令で定めていた事項であればともかく、省令で定めていた基準については、所詮その程度の内容なのであるから、項目によっては、首長規則に委任するものがあってもよいのではないだろうか。結果として、そもそも条例事項とすべきでないような事項が条例事項とされてしまったのである。

 結局のところ、上記の地方分権改革推進委員会の見解は、どのような事項を条例事項とするかということを前提としていない空疎なものなのである。