自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

自治体の規則(5)

 (4) 手続的事項等

  ・ 様式、添付書類等

 地方分権推進委員会による「法令において地方公共団体の条例、規則等へ委任する場合の基本的考え方」という意見において、「法令に規定されている権利義務規制に関する様式、添付書類、受付窓口等の手続的事項」は、地方自治法第14条第2項の射程外とされている。

 住民の権利義務規制に関する様式として代表的なものは申請書等の様式であるが、これは、必ずその様式によって欲しいのであれば規則で定めるべきであるが、申請者等の便宜のために定めるのであれば、あえて規則で定める必要はないということになる。

 また、許可証や免許証といった住民が一定の地位にあることなどを証明する様式については、対外的に証明する必要があるので、規則で定めるべきである。

 その他の様式としては、自治体の職員が立入検査時等に持参する身分証明書がある。これは、立入検査等を受ける者に対し、その権限を要することを証明するものであるため、法規たる規則で定めるべきものだろう。

 添付書類については、権利義務規制そのものではないとしても、それに付随している事項であり、規則で定めるべき事項であろう。「その他○○が必要と認める書類」という形で執行機関に委任する場合もあるが、できる限り規則で定めるべきである。

   ・ 不服の申出等に関する事項

 住民が不服の申出等を行う手続の代表的なものとしては、行政不服審査法に基づく不服申立ての手続がある。同法に基づく不服申立てではないが、職員に関する手続として人事委員会又は公平委員会が行う勤務条件に関する措置の要求や不利益処分に関する不服申立ての審査の手続は、次のとおり人事委員会規則又は公平委員会規則で定めることとされており、そうすると、不服申立ての手続に関する事項は、規則で定めることとすることが考えられる。

   地方公務員法

(人事委員会又は公平委員会の権限)

第8条 人事委員会は、次に掲げる事務を処理する。

 (1)~(8)  (略)

 (9) 職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関する措置の要求を審査し、判定し、及び必要な措置を執ること。

 (10)職員に対する不利益な処分についての不服申立てに対する裁決又は決定をすること。

 (11)・(12)  (略)

2 公平委員会は、次に掲げる事務を処理する。

 (1) 職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関する措置の要求を審査し、判定し、及び必要な措置を執ること。

 (2) 職員に対する不利益な処分についての不服申立てに対する裁決又は決定をすること。

 (3)・(4)  (略)

3~7  (略)

8 第1項第9号及び第10号又は第2項第1号及び第2号の規定により人事委員会又は公平委員会に属せしめられた権限に基く人事委員会又は公平委員会の決定(判定を含む。)及び処分は、人事委員会規則又は公平委員会規則で定める手続により、人事委員会又は公平委員会によつてのみ審査される。

9  (略)

 規則で定める不服申立ての手続に関する事項として、情報公開条例に基づく公文書公開決定に対する不服申立てにおける附属機関の審査の手続などが考えられるが、これは条例で規則に委任している場合が多いのではないだろうか。

 その他、正式な不服申立ての手続とは別に苦情処理の手続などを設ける場合に、その手続に関する事項を規則で定めることが考えられる。

 (5) その他の事項

 その他、住民に関係する事項については、規則で定めることが考えられるが、その一つとして、住民に対する表彰に関する事項が挙げられる。

 住民に対する表彰を定める例規の形式として、兼子仁『自治行政法入門』(P77)は、規則で定めるのも悪くはないが、条例で定めるのが最も好ましいとし、その方が「表彰される住民も、自治議会立法を根拠にしていると喜びがひとしおと思われる」としている。

 表彰の形式によって住民の喜びの度合いが違うということについては疑問を感じるが、国においては、政令と同一の効力を有する太政官布告、勅令等によっている。そして、平成13年10月の「栄典制度の在り方に関する懇談会報告書」では、現行の枠組みの中で対応することが可能としており、特に法律で規定することが検討されているといったことはないことからすると、自治体においては規則で定めることとして特に問題はないであろう。

 では、要綱等で定めてもよいかであるが、兼子前掲書(P77)は、次のように述べている。

 住民を表彰するのに、……「表彰規程」を根拠にする自治体がいぜん少なくないのは、いかがなものか。……もっとも「表彰規程」でも、住民表彰は対外事項ゆえ訓令では良くなかろうと、「告示」形式にしているのはせめてもの救いである……。だが、住民関係事項を行政内規で定めるのだったら、「要綱」として告示化するほうがベターではないか……。

 表彰については権利性まではないだろうから、規則で定めなければいけないとまでは言えないだろうが、表彰とは「善行、功労、成果などを世に広く褒め表すこと」(法令用語研究会『法律用語辞典』)であり、住民全員で褒め称えるのだということを考えると規則の方が適当ということになると思う。

 さらに、表彰に当たっては対象者の刑罰の有無を確認する必要があろうが、個人情報の保護等の観点を踏まえると、その根拠としては法規である規則のほうが適当であるといった議論もあると思う。