自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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自治体の規則(4)

 

 (3) 補助金の交付

 補助金の交付については、通則的な事項は補助金交付規則といった規則で定め、個別の補助金の内容を定める場合には要綱という形式を用いるのが一般的である。通則的な事項が規則で定められているのは、地方自治法施行令第173条の2の規定により財務に関する事項が規則事項とされているためであろう。そこで、ここでは、個別の補助金について規則で定めることについて触れることとするが、その前に、若干長くなるが、補助金の交付の性質について確認しておくことにする。

 補助金の交付の性質は、国におけるそれが行政処分とされているが、それはあくまでも立法政策であり、自治体におけるそれは一般的には次のように贈与であると考えられている。

 補助金の交付などは本来贈与であるから、その申込みが拒絶されても民法上はその承諾を強制する手段はあり得ないが、行政法規には、ある目的から、この交付申請のような実体法上は権利性の認められないものについて実体的ないし手続的権利を作出し、行政庁がこれに応じ又は拒否する行為を行政処分として構成する立法政策を採用しているものがある。

 実体法上は権利性の認められないものについて法がそのような立法政策を採った制度の例として、国の補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく負担金の交付決定がある(東京高判昭55.7.28行裁集31巻7号1558頁、その原審東京地判昭51.12.13行裁集27巻11・12号1790頁)。……県や市などには、条例に基づかず、要綱を制定して、これによって補助金等を支給する制度を設けている例があり、このような要綱に基づく申請の拒否を行政処分と認めた裁判例もある。しかし、条例等の法令に根拠を持たない補助金の支給は、本来贈与であり、その性質上公権力の行使という色彩の乏しいものであって、これを公権力の行使とするためには、そのような補助金の支給を申請することのできる地位に権利性を作出するような法令の規定が必要であろう。(司法研修所『改訂行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』(P19~))

 ただし、自治体において補助金交付規則が定められていることとの関係で、平岡久『行政法解釈の諸問題』(P53)では次のように記載している。

 長の規則は、……その内容または規律対象を問わず、全体として、行政を規律する成文の「法」規範の一種として、自治体の組織および活動を私人や裁判所との関係において対外的に拘束する効力を有する規範であり、裁判規範になりうる。このような意味においてこそ、長の規則は行政による立法であり、「行政立法」の一種である。

 ある下級審判決*1は、長が制定した補助金交付規則について、「行政庁が自らの内部規則として定めた規則」であって「法規範」ではないとし、このことを補助金交付決定の「行政処分」性の否定にまでつなげている。筆者の右のような理解からすると、この判決は、「法規」と(行政「内部」的な)「行政規則」の区別についての伝統的な説明に影響を受けている可能性が高く、長の補助金交付規則を「要綱」類または「訓令」類とほとんど同一視している。また、当該規則制定に対する授権の存否(地方自治法15条1項あるいは同法施行令173条の2)を顧慮していない、という問題点も含んでいる。

 これは、補助金交付規則の存在によって、その行政処分性を認める見解と言える。

 これに対し、碓井光明『要説住民訴訟自治体財務』(P189~)は「名古屋地判昭和59.12.26(判例時報1178号64頁)は、……市街地再開発組合に対する市の補助金について、『市費補助金等に関する規則』が制定されていたが、交付決定に対する不服申出の手続が規定されておらず、補助金交付の細則を定めたものにすぎないので、いずれも行政処分的性質を有するものではない」とした上で、「明らかに自治体内部を規律する趣旨が示されている場合は、行政処分性を認めることはできない」としている。これは、補助金交付規則が自治体を規律するという趣旨で定められているのであれば行政処分ではないということであろう。しかし、補助金交付規則がその相手方の従うべき手続等を定めるものという趣旨で定められているのであれば行政処分に当たる可能性があるとしていると思われ、それはその規則の規定の仕方によることになるだろう。

 しかし、補助金交付規則の規定が対外的な拘束力を有するかどうかという問題とその補助金が贈与という契約であるか行政処分であるかという問題とは、必ずしもリンクする問題ではない。仮にその規則に相手方が拘束されるとしても、補助金の性格は贈与という契約とする考えも格別矛盾するものではない。補助金の交付が行政処分であるかどうかは、前述のとおり不服申出の手続があるかどうかをメルクマールとして考えれば足りるだろう。

 では、上述のような性格を有する個別の補助金の交付を規則で定めることの意義は、それに政策的に権利性を認めることにあると思われる。つまり、通常は予算上の制約等から贈与としたいと考えるであろうが、福祉給付金的なものについては政策的に相手方に権利性を認めることとし、その場合には規則という形式を用いることが適当ということになろう。

 なお、補助金の交付について、相手方に権利性を認めることにより、事務処理の便宜から規則に不服申出の規定を置き、それを行政処分とする制度設計とすることもあり得るであろう。この点について、兼子仁『自治行政法入門』(P84)は「規則に基づく補助金等の不交付決定が、条例上のそれと同じく行政『不服申立て』のできる処分かどうかが解釈問題に残る」としているように、規則に規定しても行政処分とはならないとする見解もある。しかし、不服申出の手続を規定することは、その前提となる補助金の交付という権利を付与することに伴うものであって、権利を制限したり義務を賦課するものではないため、規則で定めることも可能と解すべきだろう。

*1:東京地判昭63.9.16行集39巻9号859頁