自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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自治体の規則(2)

 

 今回から具体的にはどのような事項が規則で定めるべき事項と考えられるか記載していくことにしたい。

 1 長の事務に関する事項

 (1)  組織関係

  ・ 長の内部組織

 組織に関する規程は行政規則であるとされることもあるが、組織に関する事項自体は法律事項とされている。その考え方について、佐藤功『行政組織法(新版・増補)』(P92)は、次のとおり記載している。

 問題は、従来の官制の内容がすべて法律で定められることを要するかにある。そしてこの問題は、すでに憲法の審議に当たって貴族院において詳細に論議された点であった。すなわち沢田牛麿議員の「今度は官制というものが全部法律事項になるのでありますか」という形の質問に対して、金森国務大臣は、憲法の解釈として、省の設置(したがってその所掌事務をも含む)は、1つには憲法自体が法律によって定めるものとしている内閣の組織と密接不可分であること(このことは……、66条1項を74条の「主任の国務大臣」の規定と関連させて解する考え方を示す)、第2には、いかなる行政事務がいかなる省の所掌であるかは「国民との間の意思作用を起すもの」であり、また「国民の権利義務と直接に関連するもの」であることの結果として法律で定めるべきであるが、省の内部組織(職員、その定員をも含む)は法律を要しないが、ただ……国会の尊重という見地から、憲法上は法律を要せず命令で定めうる事項についても法律で定めることとするのが妥当である、ただその場合も行政の機動性の確保という面から法律の委任という方法によって両者の要請を調和しうるであろう、という趣旨を述べたのであった。

 組織に関する事項が法律事項とされるのは、国民の権利義務と直接に関連することであるのなら、住民の日常生活に関する事務を処理する基本的単位たる組織及びその上位の組織については、法規で定めたほうがいいと考えることができる。

 地方自治法の規定では、長の内部組織は、その直近下位の組織については条例事項とされており(地方自治法第158条第1項)、それ以外の組織については、松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改訂版)』(P503)では「長の定める規則等で定めることが可能である」とされているとおり、規則で何を定めなければいけないということは記載されていない。しかし、地方自治法第171条第5項は「普通地方公共団体の長は、会計管理者の権限に属する事務を処理させるため、規則で、必要な組織を設けることができる」とされていることからすると、地方自治法においては、自治体の組織のうち一定のものは規則で定めることが適当であると考えていることになる。

 以上によれば、自治体における基本的な活動の単位は「課」であり、「課」は住民の生活に関係する組織の単位と言えるので、最低限「課」については規則で定めるべきであるだろう。

   ・ 職

 職の設置については、都道府県は原則として規則で定めることとされており(地方自治法施行規程第5条)、法令で規則規定事項とされている。

 市町村の場合は同様の規定はないが、地方公営企業法第15条第1項のように職については規則で定めることを前提としているものと考えられる規定もあることから*1、職の設置は規則で定めるのが適当ということになろう。

   ・ 事務の委任

 事務の委任については、地方自治法第171条第4項の規定*2からすると、法令上は必ずしも規則で定めることまでは予定していない。しかし、事務の委任は、誰が行政処分等の行為を行うことができるかということと関わるので、住民にとっても重大な関心事ということができるので、規則で定めることとするのが適当だろう*3*4

 なお、事務の専決については、内部事項であるため訓令等で定めれば足りる。

*1:地方公営企業法第15条第1項は「管理者の権限に属する事務の執行を補助する職員(以下「企業職員」という。)は、管理者が任免する。但し、当該地方公共団体の規則で定める主要な職員を任免する場合においては、あらかじめ、当該地方公共団体の長の同意を得なければならない」としており、その規則においては職を引用して規定することが通常であろう。

*2:普通地方公共団体の長は、会計管理者をしてその事務の一部を出納員に委任させ、又は当該出納員をしてさらに当該委任を受けた事務の一部を出納員以外の会計職員に委任させることができる。この場合においては、普通地方公共団体の長は、直ちに、その旨を告示しなければならない」とする規定である。

*3:秋田周『条例と規則』(P212)は、「(行政実例は)事務分掌、服務細則等について、法的には訓令によることも差し支えないが、事務分掌等は、規則で規定するのが適当であるとしている(行実昭和24.1.13)。訓令は、内部的な示達の形式であり、事務分掌は単なる内部事項ではなく、住民にこれを周知させる必要があることによって、このような解釈が示されたものであろう」としている。

*4:ただし、平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正により、行政訴訟の被告とすべき者が行政庁からその所属する団体になっているので、従来より規則で定める必要性は少なくなっているということは一応言えそうではある。