自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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自治体の規則(1)

 今回から7回にわたり、自治体の規則について取り上げる。これは、旧ブログで「例規の形式」として記載した記事を中心に長の規則について記載した記事を書き直したものである。

 規則の記載事項については、なお明確にはなっておらず、ともすれば規則で定めた方が良いような事項を要綱等の形式によってしまうことも多々あるかと思い、改めて取り上げておくこととする。

 なお、長の規則は自治体の規則であるが、その位置付けについては、当時と見解を異にしている部分がある。

 <根拠規定

普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。」(地方自治法第15条第1項)

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  • 2007年5月12日付け記事「自治体の組織(7)~委任と専決」
  • 2007年6月30日付け記事「規則の活用~文書管理に関する規程を規則にすることについて」
  • 2007年10月5日付け記事「例規の形式(1)~はじめに」
  • 2007年10月7日付け記事「例規の形式(2)~規則の内容(その1)」
  • 2007年10月12日付け記事「例規の形式(3)~規則の内容(その2)」

 

 地方自治法第15条第1項の規定は、平成11年の地方分権により機関委任事務が廃止された前後で文言に違いはない。しかし、同法第14条第2項で「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。」という規定が設けられたことによって、規則の性質は大きく変わっている。

 「逐条地方自治法」における記載を見ると、長野士郎『逐条地方自治法(第九次改訂新版)』(P144~)は、規則の種類について、「条例について述べたところとおおむね同様」としつつも、「住民の権利義務に関するもの」、「普通地方公共団体の内部的規律(行政規則)に関するもの」、「その他の事務処理手続に関するもの」に大別し、「住民の権利義務に関するもの」について、さらに「本来の公共事務に関するもの」、「委任事務中公共事務の性質を有するもの」、「行政事務に関するもの」、それから「機関委任事務に関するもの」に項目を分け記載しているのに対し、松本英昭『新版地方自治法(第4次改訂版)』(P209~)は、「おおよそ条例に準じて考えられるので条例の分類を参照されたい」と簡略な記載にとどまる。

 鈴木庸夫『自治体法務改革の理論』(P3)では、「機関委任事務体制の崩壊によって、規則の役割は急激に減少しつつある」とされ、また、小早川光郎・小幡純子『あたらしい地方自治地方分権』(P44)では、次のように指摘されている。

 そもそも条例と規則の関係というのが、今回の自治法では、あまり整理し切れていないのです。執行機関として議会と長の二元制があって、それぞれが定めるものが国レベルでいうと、法律と行政庁の命令という関係になるのか、それと全く同じで良いかという問題です。……条例の方にある意味での優位性がすでに認められているという中で、では法律と命令の関係と同様に条例が規則に委任していく形になっていくのか、そこがあまりはっきりはしていないのですが、これから現実のいろいろな作業を自治体で進めていく中では、整理しておかないと困るのではないかという気がしております。(「座談会・地方分権改革の意義と課題」における小幡純子教授発言)

 さらに、法令において規則に委任する場合について、地方分権推進委員会意見「法令において地方公共団体の条例、規則等へ委任する場合の基本的考え方」(H12.8.8)は、次のとおりとしている。

(1) 改正地方自治法第14条第2項においては、地方公共団体が住民に義務を課し、又は権利を制限(以下、「権利義務規制」という。)するには、条例によらなければならないこととされている。

(2) この趣旨を踏まえ、法令により、権利義務規制を行うための基本的な規範の定立を地方公共団体の法規に委任する場合にも、規則等ではなく条例に委任することを原則とする。

(3) ただし、以下のような場合には、「法令に特別の定め」を設けて例外的に規則等に委任することとしても差し支えないこととする。

 ① 機動性という観点から、規則等で行うことに相当の合理性がある場合(社会経済情勢等の変更・変遷に即応し、機動的に制定又は改廃されなければならない性質をもつもの。なお、その判断は、これまでも頻繁に改廃されているなど、客観的な根拠に基づき行うものとする。)

 ② 規則の実効性を担保するために必要な行政罰(過料)を規則で設ける場合(地方自治法第15条第2項)

(4) なお、以下のような事項については、そもそも改正地方自治法第14条第2項の射程外であることから、上記立法論の対象とはしない。

 ① 権利義務規制に関連しない事項

 ② 権利義務規制に関連する事項であるが、地方公共団体の執行機関の個別執行活動として整理されるものであり、基本的な規範の定立に該当しない事項

  A 法令に規定されている権利義務規制の個別具体的な事例へのあてはめを規則等に委ねているもの

 ③ 権利義務規制に関連する事項であり、かつ、基本的な規範の定立に該当する事項であるが、その内容は法令に規定されている権利義務規制に関する付随的事項に限定されたものであり、かつ、独自の権利義務規制を新たに創設するものではない事項

  A 法令に規定されている権利義務規制に関する一定の算式、手法等に基づく数値の算出等を規則に委ねているもの

  B 法令に規定されている権利義務規制に関する様式、添付書類、受付窓口等の手続的事項を規則に委ねているもの

 (参考) 改正地方自治法第14条第2項の射程範囲については、別表(別表略)を参照のこと

(5) また、公物管理権等の物的支配権に基づく規制については、公共用物と公用物とを区別し、公共用物に係る権利義務規制については、原則として条例によるべき必要があるが、公用物については侵害留保原則の対象外として、改正地方自治法第14条第2項の射程外である。 

(6)  (略)

 規則の役割は減少されたのだと考えると、法制度上は条例とは別個の法形式と言ってみても、実際は政省令のように条例の委任等による場合くらいしか規則を活用する場面がなくなってしまうことになる。

 しかし、規則は、法規としての性質があることは事実である。例えば、平岡久『行政法解釈の諸問題』(P53)は、「長の規則は、……その内容または規律対象を問わず、全体として、行政を規律する成文の『法』規範の一種として、自治体の組織および活動を私人や裁判所との関係において対外的に拘束する効力を有する規範であり、裁判規範になりうる。このような意味においてこそ、長の規則は行政による立法であり、『行政立法』の一種である」としている。こうした規則の性格から、具体的にはどのような事項を規則で規定すべきと考えるべきなのか、次回以降で取り上げることとしたい。