自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

おかしな例規(2)

   容器保安規則等の一部を改正する省令(平成30年経済産業省令第61号)

 (容器保安規則の一部改正)

第1条 容器保安規則(昭和41年通商産業省令第50号)の一部を次のように改正する。

 次の表により、改正前欄に掲げる規定の傍線を付した部分は、これに順次対応する改正後欄に掲げる規定の傍線を付した部分のように改める。

(略)

   附 則

 (施行期日)

第1条 この省令は、平成31年9月1日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 (1) 第1条並びに第3条中様式第37、様式第53、様式第54、様式第57及び様式第57の2の改正規定 公布の日

 (2) 第7条 平成30年11月30日

 (経過措置)

第2条 この省令の施行(附則第1条本文の規定による施行をいう。以下本条において同じ。)の際現に設置され、若しくは設置若しくは変更のための工事に着手している耐震設計構造物又はこれらの耐震設計構造物についてこの省令の施行後に高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号。以下「法」という。)第14条第1項又は第19条第1項の許可を受けて行われる耐震上軽微な変更の工事が行われる場合の当該耐震設計構造物のこの省令の規定の適用については、なお従前の例によることができる。

2・3 (略)

 この省令は、新旧対照表方式による改正であるが、おかしいのは、附則第2条第1項の括弧書きの部分である。その意味するところは、附則第1条本文で平成31年9月1日施行としているその部分を指す意図なのだろうが、あえて説明しなくても「この省令の施行」とすればそれを指すのがルールであり、この括弧書きは不要である。

経過規定(10)

 (5) 試験の名称を変更した場合の経過規定

 平成21年4月22日に公布された「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律等の一部を改正する法律(平成21年法律第20号)」(衆法)は、あん摩マッサージ指圧師試験等の名称を、国家試験であることを明確にするため、あん摩マッサージ指圧師国家試験等に改めることとしている。

 そして、これに伴い所要の経過規定が置かれているが、「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の改正及びそれに伴う経過規定は、次のとおりである*1

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律等の一部を改正する法律案

 (あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律の一部改正)

第1条 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)の一部を次のように改正する。

  第2条第1項中「あん摩マツサージ指圧師試験、はり師試験又はきゆう師試験」を「あん摩マツサージ指圧師国家試験、はり師国家試験又はきゆう師国家試験」に改める。

   附 則

 (あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律の一部改正に伴う経過措置)

第2条 この法律の施行前に第1条の規定による改正前のあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律の規定によりなされたあん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許若しくはきゅう師免許又はあん摩マッサージ指圧師試験、はり師試験若しくはきゅう師試験は、それぞれ、同条の規定による改正後の同法の規定によりなされたあん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許若しくはきゅう師免許又はあん摩マッサージ指圧師国家試験、はり師国家試験若しくはきゅう師国家試験とみなす。

 私は、この経過規定をなぜこのような書き方としたのかよく分からない。

 ちなみに、「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の関係規定は、次のとおりである。

   改正後のあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律

第1条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。

第2条 免許は、学校教育法(昭和22年法律第26号)第90条第1項の規定により大学に入学することのできる者(この項の規定により文部科学大臣の認定した学校が大学である場合において、当該大学が同条第2項の規定により当該大学に入学させた者を含む。)で、3年以上、文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、文部科学大臣の認定した学校又は厚生労働大臣の認定した養成施設において解剖学、生理学、病理学、衛生学その他あん摩マツサージ指圧師、はり師又はきゆう師となるのに必要な知識及び技能を修得したものであつて、厚生労働大臣の行うあん摩マツサージ指圧師国家試験、はり師国家試験又はきゆう師国家試験(以下「試験」という。)に合格した者に対して、厚生労働大臣が、これを与える。

②~⑩ (略)

第3条の3 免許は、試験に合格した者の申請により、あん摩マツサージ指圧師名簿、はり師名簿又はきゆう師名簿に登録することによつて行う。

② (略)

 例えばあん摩マッサージ指圧師免許を取得するためには、該当する試験を受けなければいけないのであるが、その名称が変わったので、改正前の試験に合格して免許を取得している場合や、改正前の試験に合格したがまだ免許を取得しておらず、改正後にそのための申請を行おうとする場合のために、何らかの経過規定は必要になってくる。ただ、それは改正前の法律に基づく試験を改正後の法律に基づく試験とみなせば足りるのであり、それに加えて、その免許についてまで同様の経過規定を置く必要はないのではないだろうか。

 ちなみに、類似の事例で看護師等の試験の名称が改められた際には、次のような経過規定が置かれている。

   保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律(平成13年法律第153号)

   附 則

(旧法の規定による免許を受けた者)

第2条 この法律の施行の際現にこの法律による改正前の保健婦助産婦看護婦法(以下「旧法」という。)の規定による保健婦免許若しくは保健士の免許、助産婦免許、看護婦免許若しくは看護士の免許又は准看護婦免許若しくは准看護士の免許を受けている者は、この法律による改正後の保健師助産師看護師法(以下「新法」という。)の規定による保健師免許、助産師免許、看護師免許又は准看護師免許を受けた者とみなす。

 (旧法の規定による試験に合格した者)

第3条 旧法の規定による保健婦国家試験(保健士になるためのものを含む。附則第6条及び第7条において同じ。)、助産婦国家試験、看護婦国家試験(看護士になるためのものを含む。附則第6条及び第7条において同じ。)又は准看護婦試験(准看護士になるためのものを含む。附則第6条及び第7条において同じ。)に合格した者は、新法の規定による保健師国家試験、助産師国家試験、看護師国家試験又は准看護師試験に合格した者とみなす。

 この「保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律」にも免許に関する経過規定は置かれているのだが、これは、免許の名称も改正されているので、このような経過規定は必要になってくる。その意味で、上記の平成21年法律第20号の場合とは事情を異にするだろう。 

(このシリーズ終わり)

*1:その他、歯科衛生士法、診療放射線技師法、歯科技工士法及び柔道整復師法についても、同様の改正等がなされている。

法案のミスから思うこと

 今国会における法案のミスが大きな話題になっている。その数は、24の法案等について134件であり、そのうち条文等の誤りは3法案1条約の合計12か所で、他は新旧対照表等の参考資料におけるものである。

 本件については、次のような報道がなされている。

法案に単純ミス多発、なぜ?「人手不足と働きすぎ」

 政府が提出した法案にミスが次々判明。霞が関で、何が起きているのでしょうか。 

 (略)

 その多くが単純なミス、例えば…。

 「激甚じん→激甚」

 「若(も)ししくは→若しくは」

 「海上保安長長官→海上保安庁長官」

 なかには文脈が変わってくるような間違いも…。

 「英国軍隊→カナダ軍隊」

 「電子通信回線→電気通信回線」

 今のところミスが見つかっていない国土交通省の幹部はこう話しています。

 国交省幹部:「ありえないですね。我々役人は法案の作成や確認、読み合わせを徹底的にたたき込まれていますから、なんで多発するんだろうとびっくりしています。マンパワー不足と働き過ぎ…これに尽きるんじゃないかと思います」

 萩生田文科大臣:「すべて読み合わせを確認するという再発防止策を直ちに講じて参りたいなと思っています」

 梶山経済産業大臣:「原因については様々あると思いますけれども、しっかりと確認をするということ」

 厚生労働省で働いていた元官僚は新型コロナ対応が人手不足に拍車をかけ、ミスを生んでいるとみています。

 加藤官房長官は府省庁横断のチームを作って原因究明や再発防止策を検討するとしています。

テレビ朝日 3月26日配信

 国における法案作成の方法は十分に承知していないのだが、新旧対照表及び改め文の作成はシステムによる自動生成機能を用いているということも耳にする。そうすると、ミスの内容を見ると、その原因は、業務過多ということもあるのだろうが、システムが十分機能していないことも大きいのではないだろうか。上記の「激甚じん」、「若(も)ししくは」といったミスは、システムによる法令データの保有の仕方が起因しているように感じる。

 そうであれば、システムの機能の精度を上げることが本件における絶対の解決策であって、再発防止策として読み合わせを徹底すると言っているが、一方でデジタル化と言っていながら、事務処理のチェックをアナログな方法で行うというのはいたってナンセンスである。大体、本件におけるミスの多くは参考資料におけるものであり(3法案1条約の合計12か所という数が少ないと言えるかは分からないが)、逐条審議を行っていない国会が殊更問題とするのは筋違いのように思う。いずれにしろ、デジタル化を進める過渡期に生じた問題として、ある程度大目に見ることができないものかと感じる。そもそも、参照条文などはタブレットなどがあれば容易に確認できるのであるから、参考資料として作成する必要もないのではないだろうか。

 ところで、デジタル化が進むと、法制執務の在り方も変わっていくように思う。細かいことでは、配字へのこだわりはデジタル化にはそぐわないだろう。さらに、そもそもできるだけ文字数を少なくするための改め文方式は、変化を余儀なくされるのだろう*1。では、現在の新旧対照表方式がデジタル化に適しているかと言えば、そうでもないように感じる。むしろ、改め文方式を改良していく方向を模索した方が適当とも思ったりする。法制執務も過渡期に向かっていくのではないだろうか。

*1:片山善博市民社会地方自治」(P46~)は、「法令改正における内部作業としての資料作りの場面でのツールは明治時代の墨に始まり、その後は『ガリ版』に進化した。墨なりガリ版の時代に大切なことは、できるだけ字数を少なくすることである。特に、法令改正途中の内部作業では幾度となく内容の変更があるが、その際一からガリ版を切り直すのは実に難儀なことである。それでわかるとおり、いかに字数を節約できるかということは法令改正作業の過程においては切実な問題だったのである。従来の一部改正方式とは、この字数の節約という命題に有効かつ的確に応えるものであった。」とする。

経過規定(9)

  (4) 指定区域に関する経過規定

 区域指定を行い、その区域内で一定の規制を行うこととする条例を制定していたが、その条例を全面的に改めた際に、旧条例に基づく指定等については、新条例に基づいて当該区域を指定するまでは旧条例はなお効力を有することとしたのだが、その指定がなされると、旧条例に基づく指定は解除する必要がある。その場合に、当該指定を解除されたこととみなす規定を、次の鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第15条第12項の規定を参考に書いたことがある。

 (指定猟法禁止区域)

第15条 環境大臣又は都道府県知事は、特に必要があると認めるときは、次に掲げる区域について、それぞれ鳥獣の保護に重大な支障を及ぼすおそれがあると認める猟法(以下「指定猟法」という。)を定め、指定猟法により鳥獣の捕獲等をすることを禁止する区域を指定猟法禁止区域として指定することができる。

(1) 環境大臣にあっては、全国的な鳥獣の保護の見地からその鳥獣の保護のため必要な区域

(2) 都道府県知事にあっては、地域の鳥獣の保護の見地からその鳥獣の保護のため必要な当該都道府県内の区域であって前号の区域以外の区域

2 環境大臣又は都道府県知事は、前項の規定による指定をするときは、その旨並びにその名称、区域及び存続期間を公示しなければならない。

3 第1項の規定による指定は、前項の規定による公示によってその効力を生ずる。

4~11 (略)

12 第1項の規定により都道府県知事が指定する指定猟法禁止区域の全部又は一部について同項の規定により環境大臣が指定する指定猟法禁止区域が指定されたときは、当該都道府県知事が指定する当該指定猟法禁止区域は、第2項及び第3項の規定にかかわらず、それぞれ、その指定が解除され、又は環境大臣が指定する当該指定猟法禁止区域と重複する区域以外の区域に変更されたものとみなす。

13   (略)

 もちろん、旧条例に基づく指定が不要になったときに、解除の手続をとってもいいのだが、例規に書けば済むのであれば、事務の省力化につながるのではないだろうか。

経過規定(8)

  ウ その他

 附属機関の経過規定に関連した事項について、実際に聞かれて疑問に思ったことがある。それは、附属機関の会議の招集について「会議は、会長が招集する」といった規定を置くことがあるが、会長は委員の互選によることとしている場合には、最初の会議は招集者がいないことになり、その場合には、附属機関の会長が招集することはできないので、長が招集すればいいのかということである。

 法律では次のような例がある。 

   ユネスコ活動に関する法律(昭和27年法律第207号)

 (会議)

第15条 国内委員会の会議は、年2回会長が招集する。但し、会長は、必要があると認めるときは、臨時にこれを召集することができる。

   附 則

 (第1回の会議の招集)

6 国内委員会の第1回の会議は、第15条の規定にかかわらず、文部大臣が招集する。

  例えば、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)」第11条第1項などに会議の招集の規定があるが、上記のような経過規定は置かれていない。会長が決まっていない場合は、その審議会を所管する機関の長が招集するのが当然だと考えているのかもしれない*1

 さらに、近年は、会議の招集に関する規定自体置かれていない例が多いように思う。確かに、会議の成立要件とか議決の方法などは大切であろうが、誰が招集するかは、審議会に関してはどちらでもいい問題なのかもしれない。

 (3) 特別会計の廃止に伴う経過規定

 特別会計を、例えば平成18年度限りで廃止する場合には、廃止条例の施行日は平成19年4月1日とするが、出納整理期間があること等により、所要の経過規定を置く必要がある。

 法律の例として、国立学校特別会計法が国立学校法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成15年法律第117号)により廃止され、平成16年4月1日から施行されたが、同法に次の経過規定が置かれている。

   附 則

 (国立学校特別会計法の廃止に伴う経過措置)

第2条 国立学校特別会計における平成15年度の収入及び支出並びに同年度以前の年度の決算に関する事務については、なお従前の例による。

2 (略)*2

3 この法律の施行の際現に国立学校特別会計に所属する権利及び義務……は、政令で定めるところにより、一般会計に帰属するものとする。

  上記の第3項のような規定が一般的に必要なのかどうかは、検討してみたい。

*1:古い事例だが、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」附則第9条に「前条の規定により新委員が任命された後最初に招集すべき教育委員会の会議は、新法第13条第1項の規定にかかわらず、地方公共団体の長が招集する。」という規定が置かれているが、このような場合は、附属機関と違って当然長が招集するとも言い難いので、経過規定を置いたのではないかと思う。

*2:附則第2条第2項は、同条第1項に規定する事務を行う主体を定めている。

経過規定(7)

  イ 附属機関の性格に変更がある場合

 次の法令の規定は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定の際に、同法に基づく事項を審査する審査会について、従来の情報公開審査会を改組して情報公開・個人情報保護審査会とした場合における経過規定である。

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成15年法律第61号)

   附 則

(情報公開審査会の廃止及び情報公開・個人情報保護審査会の設置に伴う経過措置)

第2条 この法律の施行の際現に第8条の規定による改正前の行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下この条において「旧行政機関情報公開法」という。)第23条第1項又は第2項の規定により任命された情報公開審査会の委員である者は、それぞれ、この法律の施行の日に、情報公開・個人情報保護審査会設置法(平成15年法律第60号)第4条第1項又は第2項の規定により情報公開・個人情報保護審査会の委員として任命されたものとみなす。この場合において、その任命されたものとみなされる者の任期は、同条第4項の規定にかかわらず、同日における旧行政機関情報公開法第23条第1項又は第2項の規定により任命された情報公開審査会の委員としての任期の残任期間と同一の期間とする。

2 この法律の施行の際現に旧行政機関情報公開法第24条第1項の規定により定められた情報公開審査会の会長である者又は同条第3項の規定により指名された委員である者は、それぞれ、この法律の施行の日に、情報公開・個人情報保護審査会設置法第5条第1項の規定により会長として定められ、又は同条第3項の規定により会長の職務を代理する委員として指名されたものとみなす。

3 この法律の施行前に情報公開審査会にされた諮問でこの法律の施行の際当該諮問に対する答申がされていないものは情報公開・個人情報保護審査会にされた諮問とみなし、当該諮問について情報公開審査会がした調査審議の手続は情報公開・個人情報保護審査会がした調査審議の手続とみなす。

守秘義務等に関する経過措置)

第3条 情報公開審査会の委員であった者に係るその職務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない義務については、第8条の規定の施行後も、なお従前の例による。

2 第8条の規定の施行前にした行為及び前項の規定によりなお従前の例によることとされる場合における同項の規定の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

  留意すべきなのは、現在の審議会の委員(附則第2条第1項)及び役員の扱い(同条第2項)、既に諮問されている事項の扱い(同条第3項)、それから委員を対象とした罰則規定を設けている場合には、罰則に係る経過規定を置くことを考えるべきということになる。

経過規定(6)

3 具体的な経過規定の例

  (1) 施行日前に一定の行為をすることができる旨の経過規定

 ある行為等について許可制を採ることとした場合、当該行為等を施行日にしたい者もいるため、法律では次のような経過規定を置くことがある。

 第○条の許可の手続は、この法律の施行前においても行うことができる。

 しかし、事前届出制を採ることとした場合に同様の経過規定を置いている例は見たことがない。届出制であっても当該行為等を施行日にしたい場合もあると思うが、上記のような経過規定が置かれないのは、届出であれば行政庁に到達すれば足りるため、あえて規定するまでもないと考えているのかもしれないし、施行日前後であればあえて事前に届出をさせなくてもいいと考えているのかもしれない*1

 ただし、届出制の場合であっても、一定期間着手制限をかけ、必要に応じ行政命令等の規定を置くような場合には、当該届出に係る行為の着手時期との関係で、行為者が施行日前に届出を行いたいという場合もあるだろうから、経過規定を置くべき場合もあると思う。

 その場合の経過規定としては、上記と同様に「第○条の届出は、この条例の施行前においても行うことができる。」といった規定が基本となるが、合わせてそれに付随した手続(行政命令等)を行うことができる旨の規定を併せて置くことになるだろう。具体的には、環境影響評価法附則第5条の規定などが参考になる。

 (2) 附属機関に関する経過規定

 附属機関に関する規定の改正等を行った場合に、所要の経過規定を置く必要があることがあるが、その書き方については、附属機関の性格に変更がある場合とない場合とに分類することができる。

  ア 附属機関の性格に変更がない場合

 附属機関の根拠規定に変更等があった場合、その性格に変更がない場合であっても経過規定を置くことが通例である。具体的に法令の事例を見てみると、男女共同参画社会基本法が制定され、男女共同参画審議会の設置根拠が同法となった際の経過規定は次のとおりである。   

   男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)

   附 則

 (経過措置)

第3条 前条の規定による廃止前の男女共同参画審議会設置法(以下「旧審議会設置法」という。)第1条の規定により置かれた男女共同参画審議会は、第21条第1項の規定により置かれた審議会となり、同一性をもって存続するものとする。

2 この法律の施行の際現に旧審議会設置法第四条第一項の規定により任命された男女共同参画審議会の委員である者は、この法律の施行の日に、第23条第1項の規定により、審議会の委員として任命されたものとみなす。この場合において、その任命されたものとみなされる者の任期は、同条第二項の規定にかかわらず、同日における旧審議会設置法第4条第2項の規定により任命された男女共同参画審議会の委員としての任期の残任期間と同一の期間とする。

3 この法律の施行の際現に旧審議会設置法第5条第1項の規定により定められた男女共同参画審議会の会長である者又は同条第3項の規定により指名された委員である者は、それぞれ、この法律の施行の日に、第24条第1項の規定により審議会の会長として定められ、又は同条第3項の規定により審議会の会長の職務を代理する委員として指名されたものとみなす。

  上記の経過規定は、審議会の同一性の規定のほか、その委員について所要の規定を置いているが、現在は、次のように審議会の同一性の規定を置くのみとするのが通例となっていると思われる*2。 

内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律(平成27年法律第66号)

   附 則

 (情報公開・個人情報保護審査会設置法の一部改正に伴う経過措置)

第2条 この法律の施行の際現に第22条の規定による改正前の情報公開・個人情報保護審査会設置法第2条の規定により置かれている情報公開・個人情報保護審査会は、第22条の規定による改正後の情報公開・個人情報保護審査会設置法第2条の規定により置かれる情報公開・個人情報保護審査会となり、同一性をもって存続するものとする。

 

*1:この場合には、事後の届出で足りる旨の経過規定を置くことになる。

*2:本件は、情報公開・個人情報保護審査会の所管を内閣府から総務省に移管する改正に伴い置かれた経過規定であるが、扱いは同じだと考えられる。