自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

「基づく」~日本学術会議の会員の任命問題に関連して

 今回は、今記載しているシリーズを中断して、話題になっている日本学術会議(以下「会議」という。)が推薦した会員候補のうち6人を菅政権が任命しなかったことを取り上げる。

 日本学術会議法(以下「法」という。)第7条第2項は、「会員は、第17条の規定*1による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」と規定しているが、問題となっているのは、会議が推薦した候補者を内閣総理大臣は全て任命しなければいけないか、つまり内閣総理大臣の任命は、会議の推薦に拘束されるかどうかである。

 まず、法第7条第2項にある「基づく」という用語については、吉国一郎ほか『法令用語辞典(第9次改訂版』(P730)では「普通、根拠とする、基礎とする、原因とするの意味に用いられる」とされている。この意味からすると、会議が推薦しない者を任命することは当然違法となるが、会議が推薦した者を任命しないことが直ちに違法とは言えないことになる。

 「基づく」という用語に関連して、法令用語に係る文献によく取り上げられる用語として「議に基づき」「議に付し」「議を経て」「議により」がある。これらは、合議体の機関の審議に付する場合に使用される用語であるが、その結果に審議を求めた執行機関が拘束される程度によって使い分けがされており、林修三『法令用語の常識』(P24)には次のように記載されている。

 「議により」というのが拘束力が最も強く、この語が使われている場合は、執行機関は、原則として、完全に審議会の議決に法的に拘束されるものと考えてよいであろう。……その他の3つの用語は、大体において、「……の意見を聞き」とか、「……にはかって」というのと同様に、審議会の議決にそのままの形では法的には拘束されないものとみるのが妥当であろう(法令の規定に基づき、審議機関の議にかけた以上、その意見を、事実上尊重すべきは、もとより当然である。……ただ、この場合における事実上というか、道徳的・政治的の拘束力の強さが、どの程度に及ぶかということは、それぞれの法令の規定の趣旨に従って判断するほかない)。

 これと同様に考えるのであれば、法的には、会議の推薦した全ての者をそのまま任命しなければいけないということにはならないだろう。

 この点に関連して、日本国憲法第6条第1項で「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。」とされている内閣総理大臣の任命について、天皇の行う任命が形式的であることから会議の会員も同様に考えるべきといった意見がSNS上で見られる。しかし、これは天皇は国政に関する権能を有しないことによるものと考えられ、会議の会員の任命と同列に考えることは無理があるだろう。

 以上のとおり、私は、法的には会議の推薦した全ての者をそのまま任命しなければいけないということにはならないのだと思っている。会議の推薦した者をそのまま任命しなければいけないと主張する者は、過去の推薦された者をそのまま任用していくという国会答弁を理由にしているが、これは法律の解釈の問題というよりも、運用としてそのように取り扱っていくということなのではないかと思う。

 ただし、会議の推薦を尊重する必要はあるので、政府は任命を拒否した理由を説明するのは当然であり、それが足りないのは事実だろう。

*1:日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。」という規定である。

定義規定(8)

 (2) 同一の用語で定義する事例と定義しない事例

 ある法律で定義された用語を同一の意味で使う場合には、当該法律の定義規定をそのまま引用するなどの形で定義するのが一般的であるが、なかには定義していない場合もある。そうした用語の例として、「男女共同参画」という用語を取り上げる。

 「男女共同参画」という用語が使われている法律としては、まず男女共同参画社会基本法を挙げることができる。この法律は基本法であるが、前回取り上げた「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」における「再生医療」という用語とは異なり、「男女共同参画社会の形成」という言葉について「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう」という定義が置かれている(同法第2条第1号)。基本法でありながら定義が置かれているのは、その概念が当時は必ずしも明確ではなかったからではないかと思われる。

 しかし、他に「男女共同参画」という用語が使われている次の7本の法律でこの用語を定義しているものは、ほとんどない。

 これらの法律のうち、「男女共同参画」という用語を定義しているものは、内閣府設置法のみである。では、同法以外の法律で「男女共同参画」という用語がどのように用いられているかであるが、それは次のとおりである。

 男女共同参画社会基本法では、「男女共同参画社会の形成」という用語で定義されているため、同じ形で用いている例が多いものの、単に「男女共同参画」という用語を用いている例もあり、これは「男女共同参画」という用語が一般に定着してきているからであると言えるのではないだろうか。いずれにしろ、上記の法律であえて定義していない一番の理由は、いずれも用語を厳密な意味で使う必要がない規定の中で用いているためであろう。

 最後に「内閣府設置法」であるが、この法律では第3条第2項と第4条第1項第9号の2つの条で次のとおり「男女共同参画社会の形成」という用語を用いているが、前者は定義していないにもかかわらず、後者は定義している。

 (任務)

第3条 (略)

2 前項に定めるもののほか、内閣府は、皇室、栄典及び公式制度に関する事務その他の国として行うべき事務の適切な遂行、男女共同参画社会の形成の促進、市民活動の促進、沖縄の振興及び開発、北方領土問題の解決の促進、災害からの国民の保護、事業者間の公正かつ自由な競争の促進、国の治安の確保、金融の適切な機能の確保、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けた施策の推進、政府の施策の実施を支援するための基盤の整備並びに経済その他の広範な分野に関係する施策に関する政府全体の見地からの関係行政機関の連携の確保を図るとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務とする。

3 (略)

 (所掌事務)

第4条 内閣府は、前条第1項の任務を達成するため、行政各部の施策の統一を図るために必要となる次に掲げる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務(内閣官房が行う内閣法(昭和22年法律第5号)第12条第2項第2号に掲げる事務を除く。)をつかさどる。

(1)~(8) (略)

(9) 男女共同参画社会の形成(男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)第2条第1号に規定するものをいう。以下同じ。)の促進を図るための基本的な政策に関する事項

(10)~(18) (略)

2 (略)

 第4条第1項第9号で定義しているのは、それが具体的な所掌事務を定める規定であり、一般的に任務を規定する規定とは異なって、厳密にその意味を確定しておく必要があったからではないかと思われる。

*1:前回取り上げた「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」と同じ考え方であろう。

定義規定(7)

2 定義すべきと考えられる用語を定義しない事例等

 (1) 定義すべきと考えられる用語を定義しない事例

 一見すると当然定義すべきと思われる用語を定義していない例がある。

 例えば、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」では、「子どもの貧困」や「子ども」について定義されていないことについて、立法担当者は、次のように説明している。

 本法では「子どもの貧困」の定義を置いていないが、それは本法で子どもの貧困に対して広く施策を講じていくために、子どもの貧困を定義付けて対策を限定して狭くとらえることを避けるためであるとされている。また「子ども」が何歳までを指すのかについても定義を置いていないが、それは支援が必要な子どもに必要な支援が届くようにするため、必要な支援・制度ごとにその趣旨を踏まえて対象者を決めるためであり、仮に定義を置いて年齢を明示するとそこを超えた人への支援を否定することになるからであるとされている(衆議院法制局第五部第二課 近藤怜「教育を受ける機会を保障し、『貧困の連鎖』を断ち切るための『子どもの貧困対策法』の制定~子どもの貧困対策の推進に関する法律」『時の法令(NO.1938)』(P28))。

 この事例は、弾力的な対応をするためにあえて用語の意義を明確にしたくないという意図によるものである。

 また、「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」では、「再生医療」という用語が定義されていないが、このことについて立法担当者は、次のように説明している。

 本法は再生医療についての理念や施策の方向性を示す基本法なので、「再生医療」という言葉の定義は置かれていない(衆議院法制局第五部第二課 近藤怜「iPS細胞などを使った再生医療を推進~再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」『時の法令(NO.1937)』(P8~))。*1

 いわゆる基本法的なものについては、用語の定義を厳密に行わなくても支障がないとは言えると思うが、議員立法であるという事情もあるのかもしれない。

*1:同論文(P8)には、「ちなみに、再生医療安全確保法案では「再生医療」について、薬事法改正案では「再生医療等製品」について、それぞれ定義を置いている……。」との注書がある。

定義規定(6)

 (5) 総括

 定義規定を設ける場合とは、その例規のキーワードとなる用語を定義する必要がある場合である。逆に定義するキーワードがなければ、比較的多く用いる用語があったとしても定義規定は設けないのである(したがって、定義する必要がある場合は、その文言が出てくる箇所で定義することになる。ただし、実際には頻繁に出てくる用語は、キーワードであることが多いとは思う)。キーワードかどうかについては、その例規の内容で比較的容易に判断できる。

 そして、定義規定で、キーワードと併せて定義する用語としては、次のようなものが考えられる。  

  • その例規において、比較的多く使われる用語
  • 定義規定中の用語で定義する必要があるもの
  • 例規で定義されている用語

 ただし、キーワードとは考えにくい用語のみを定義規定で定義している例もないわけではない。次に掲げる「阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法」がその例である。

阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法(平成7年法律第19号)
(定義)

第2条 この法律において「法令」とは、法律、政令又は国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第12条第1項若しくは第13条第1項の命令若しくは同法第14条第1項の告示をいう。

2 この法律において「行政機関」とは、国家行政組織法第3条第2項に規定する国の行政機関として置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又は地方公共団体の機関をいう。

(特定権利利益に係る期間の延長に関する措置)

第3条 法令に基づく行政庁の処分(平成7年1月17日以前に行ったものに限る。)により付与された権利その他の利益であり、又は法令に基づき何らかの利益を付与する処分その他の行為を当該行為に係る権限を有する行政機関に求めることができる権利であって、その存続期間が同日以降に満了するもの(以下「特定権利利益」という。)について、これらの法令の施行に関する事務を所管する国の行政機関(国家行政組織法第3条第2項に規定する委員会を除く。)の長及び同項に規定する委員会は、阪神・淡路大震災(以下「震災」という。)により被害を受けた者の特定権利利益であって、その存続期間が既に満了したものを回復させ、又はその存続期間が満了前であるものを保全するため必要があると認めるときは、その満了日を同年6月30日を限度として延長する措置を、対象となる特定権利利益ごとに、地域を単位とした当該措置の対象者及び延長後の満了日を告示により指定して行うことができる。

2 前項の規定による延長の措置のほか、同項に規定する行政庁又は行政機関は、震災により被害を受けた者であって、理由を記載した書面によりその特定権利利益に係る満了日の延長の申出を行ったものについて、平成7年6月30日までの期日を指定してその満了日を延長することができる。

3 (略)

  この定義規定は、キーワードらしい用語を定義していないことはともかくとして、そこで定義している「行政機関」という用語の第3条第1項や第2項での用い方をみると、定義規定で定義してどの程度意味があるのかという感じがする。

 ちなみに、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」においては、定義規定は置いておらず、「阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法」第3条に相当する規定は次のようにしている。

特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成8年法律第85号)

(行政上の権利利益に係る満了日の延長に関する措置)

第3条 次に掲げる権利利益(以下「特定権利利益」という。)に係る法律、政令又は内閣府設置法(平成11年法律第89号)第7条第3項若しくは第58条第4項(宮内庁法(昭和22年法律第70号)第18条第1項において準用する場合を含む。)若しくは国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第12条第1項若しくは第13条第1項の命令若しくは内閣府設置法第7条第5項若しくは第58条第6項若しくは宮内庁法第8条第5項若しくは国家行政組織法第14条第1項の告示(以下「法令」という。)の施行に関する事務を所管する国の行政機関(内閣府宮内庁並びに内閣府設置法第49条第1項及び第2項に規定する機関並びに国家行政組織法第3条第2項に規定する機関をいう。以下同じ。)の長(当該国の行政機関が内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項又は国家行政組織法第3条第2項に規定する委員会である場合にあっては、当該委員会)は、特定非常災害の被害者の特定権利利益であってその存続期間が満了前であるものを保全し、又は当該特定権利利益であってその存続期間が既に満了したものを回復させるため必要があると認めるときは、特定非常災害発生日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日(以下「延長期日」という。)を限度として、これらの特定権利利益に係る満了日を延長する措置をとることができる。

(1) 法令に基づく行政庁の処分(特定非常災害発生日以前に行ったものに限る。)により付与された権利その他の利益であって、その存続期間が特定非常災害発生日以後に満了するもの

(2) 法令に基づき何らかの利益を付与する処分その他の行為を当該行為に係る権限を有する行政機関(国の行政機関及びこれらに置かれる機関並びに地方公共団体の機関に限る。)に求めることができる権利であって、その存続期間が特定非常災害発生日以後に満了するもの

2 前項の規定による延長の措置は、告示により、当該措置の対象となる特定権利利益の根拠となる法令の条項ごとに、地域を単位として、当該措置の対象者及び当該措置による延長後の満了日を指定して行うものとする。

3 第1項の規定による延長の措置のほか、同項第1号の行政庁又は同項第2号の行政機関(次項において「行政庁等」という。)は、特定非常災害の被害者であって、その特定権利利益について保全又は回復を必要とする理由を記載した書面により満了日の延長の申出を行ったものについて、延長期日までの期日を指定してその満了日を延長することができる。

4 延長期日が定められた後、第1項又は前項の規定による満了日の延長の措置を延長期日の翌日以後においても特に継続して実施する必要があると認められるときは、第1項の国の行政機関の長又は行政庁等は、同項又は前項の例に準じ、特定権利利益の根拠となる法令の条項ごとに新たに政令で定める日を限度として、当該特定権利利益に係る満了日を更に延長する措置をとることができる。

5 (略)

  「阪神・淡路大震災に伴う許可等の有効期間の延長等に関する緊急措置法」とは、その立案等にかけた時間も違うだろうし、法律全体の規定事項も違うので一概には言えないだろうが、やはり同法の書き方はあまりよくなかったということであろうか。

定義規定(5)

 (4) 定義規定に規定しない例

 条数の少ない法律は、定義規定を置いた場合には、用語に特定の範囲のものを含ませたり、用語を特定の範囲に限定したりするものを除いて、用語の定義は、その定義規定において行うのがほとんどである。

 しかし、次に掲げる「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」のような例外もある。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)

(定義)

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1) 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。

(2) 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備電気通信事業法第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。

(3) 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。

(4) 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。

(発信者情報の開示請求等)

第4条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。

(1)・(2) (略)

2~4 (略)

  この法律は、題名のとおり特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利について定めるものであるため、「発信者情報」という用語は、この法律のキーワードと言えると思うが、第2条の定義規定ではなく、その用語が使われている第4条第1項で括弧を用いて定義している。実際には何が「発信者情報」に当たるかは省令に委任する形にしているため、あえて第2条では定義しなかったのかもしれないが、よく分からない。私だったら、第2条第4号で「発信者」を定義していることもあり、同条第5号で定義してしまうだろう。

 同様に、定義規定を置いたにも関わらず、法令の規定中でも括弧を用いて定義している例として、次に掲げる「道路整備費の財源等の特例に関する法律」がある。

道路整備費の財源等の特例に関する法律(昭和33年法律第34号)

(定義)

第2条 この法律において「道路整備費」とは、高速自動車国道及び一般国道並びに政令で定める都道府県道その他の道路の新設、改築、維持及び修繕に関する事業(これに密接に関連する環境対策事業その他の政令で定める事業を含む。以下「道路の整備に関する事業」という。)の実施に要する国が支弁する経費をいう。

(地方道路整備臨時交付金

第5条 (略)

2 (略)

3 地方道路整備臨時交付金をその費用の財源に充てて対象事業を実施しようとする道路管理者は、毎年度の当該対象事業の実施に関する計画を国土交通大臣に提出するものとする。この場合において、当該対象事業が道路管理者を異にする二以上の道路に係るものであるときは、関係道路管理者が協議して当該計画を作成するものとする。

4 地方道路整備臨時交付金は、前項の規定により提出された計画に基づき、地方公共団体ごとに交付するものとし、その額は、第2項の規定による地方道路整備臨時交付金の限度額に配分割合(当該地方公共団体が前項に規定する計画に基づき実施する対象事業に要する費用の額を当該年度において提出された同項に規定する計画に基づき実施されるすべての対象事業に要する費用の合計額で除した割合をいう。)を乗じた額を基礎とし、当該地方公共団体における道路の整備の状況その他の事情を勘案して国土交通省令で定める基準に従い補正した額とする。ただし、その額は、当該地方公共団体が同項に規定する計画に基づき実施する対象事業に要する費用の額を超えることができない。

5・6 (略)

 この法律の第5条第4項で定義している「配分割合」という用語は、同条第3項の計画を受けて記載しているので、ここで定義した方が適当であろう。さらに、この用語はこの法律のキーワードとも言えない。もちろん、その法令のキーワード以外の用語であっても、数多く用いられていれば別であるが、定義規定では、その法令のキーワードを定義し、それ以外の用語は、その用語が用いられている箇所で括弧を用いて定義するという、1つの考え方をこの法律は提示してくれているような感じがする。

定義規定(4)

 (3) 定義規定で用いられている用語

 前回の記事「定義規定(3)」で取り上げた「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」第2条第5項は、「基本契約書」という用語を定義している。この用語は、同条第6項で定義されている「一括清算」という用語の中で用いられており、このように定義規定で定義されている用語を定義する場合に定義規定の中で行うことがある。

 同様の例として、次の「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成5年法律第54号)」の定義規定がある。

(定義)

第2条 (略)

2 この法律において「解説番組」とは、テレビジョン放送(放送法第2条第2号の5に規定するテレビジョン放送をいう。以下同じ。)において送られる静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組をいう。

3 この法律において「字幕番組」とは、テレビジョン放送において送られる音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をいう。

4 この法律において「通信・放送身体障害者利用円滑化事業」とは、次に掲げる業務を行う事業であって、身体上の障害のため通信・放送役務を利用するのに支障のある者が当該通信・放送役務を円滑に利用できるようにするためのもので、身体障害者の利便の増進に著しく寄与するものをいう。

(1) 通信・放送役務を提供し、又は開発する業務

(2) 通信・放送役務を提供するための電気通信設備に付随する工作物を設置する業務

(3) 解説番組、字幕番組その他の放送又は有線放送の放送番組を制作する業務

  第2項の「解説番組」という用語と第3項の「字幕番組」という用語は、第4項第3号でしか用いられていない。同条第3号は、これらの用語を使わなくても、次のように書くことも可能だと思う。

(3) 次に掲げる放送番組その他の放送又は有線放送の放送番組を制作する業務

イ テレビジョン放送(放送法第2条第2号の5に規定するテレビジョン放送をいう。以下同じ。)において送られる静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組

ロ テレビジョン放送において送られる音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組

  そうすると、「解説番組」、「字幕番組」という用語を法律の中に書くことが重要だったということも言えるが、一応定義している用語の中で用いられている用語を定義する例として挙げておく。

定義規定(3)

  ウ 目的規定で使用されている用語

 次の規定は、「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律(平成10年法律第108号)」の定義規定である。

(定義)

第2条 この法律において「特定金融取引」とは、金利、通貨の価格、有価証券市場における相場その他の指標に係る変動、市場間の格差等(以下この項において「金利変動等」という。)に基づいて算出される金銭の授受を約する取引その他の金利変動等を利用して行われる取引のうち、証券取引法(昭和23年法律第25号)第2条第8項第3号の2に規定する有価証券店頭デリバティブ取引その他の内閣府令で定めるものをいう。

2 この法律において「金融機関等」とは、次に掲げる法人をいう。

(1) 銀行法(昭和56年法律第59号)第2条第1項に規定する銀行又は長期信用銀行法(昭和27年法律第187号)第2条に規定する長期信用銀行

(2) 証券取引法第2条第9項に規定する証券会社又は外国証券業者に関する法律(昭和46年法律第5号)第2条第2号に掲げる外国証券会社

(3) その他我が国の法令により営業若しくは事業の免許、登録等を受けている法人又は特別の法律により設立された法人であって、自己又は顧客の計算において特定金融取引を相当の規模で行うものとして政令で定めるもの

3 この法律において「破産手続等」とは、破産手続、再生手続又は更生手続をいう。

4 この法律において「一括清算事由」とは、破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立てをいう。

5 この法律において「基本契約書」とは、特定金融取引を行おうとする金融機関等とその相手方との間において二以上の特定金融取引を継続して行うために作成される契約書で、契約の当事者間において行われる特定金融取引に係る債務についてその履行の方法その他当該特定金融取引に関する基本的事項を定めるものをいう。

6 この法律において「一括清算」とは、基本契約書に基づき特定金融取引を行っている当事者の一方に一括清算事由が生じた場合には、当該当事者の双方の意思にかかわらず、当該一括清算事由が生じた時において、当該基本契約書に基づいて行われているすべての特定金融取引についてその時における当該特定金融取引のそれぞれにつき内閣府令で定めるところにより算出した評価額を合算して得られる純合計額が、当該当事者間における一の債権又は一の債務となることをいう。 

  この法律第1条の目的規定は「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算についての破産手続等における取扱いを確定することにより‥‥」としており、そこで使用されている用語を定義している。目的規定で使用される用語は、当然キーワードであると言えるだろう。